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帰省の日の朝、虎徹を郊外の駅まで車で送りに出すバニー。バニー視点。前作の続きです。 最終的にさよならしてそれぞれの道を歩むとかいうCPが大好きで、17話、有りなんじゃないか…!これエンディングでも良いよ!と滾ったんですが、あそこで終わるとバニーが全然良い所見せず仕舞いでただのウザ野郎で、それだけはちょっと納得できない!と思い、どうにかバニーを男にしてやれないかということで…。ほんとは虎徹がなんかしょげてるなって分かってたけど、敢えて踏み込まない、踏み込むのは自分の役目じゃない(実家に帰るって言い出して納得→きっと家族の役目なんだ)とか自覚してたり、自分の方もそろそろ一人立ちするんだって覚悟ができてたり、しないかな…!という妄想話です。楓ちゃんの話聞いてる時のバニーが好き過ぎます。9話では、ふーんも言わないでスルーでおじさん溜め息吐いてたのにねー!おじさんもきっと嬉しい。バニーが娘の話聞いてくれて。今のバニーなら、楓の傍に居る、っていうのも喜んで快諾…して…くれないか…な……(言いながら自信がなくなっていく。バニー基本いっぱいいっぱいだから…そんな心配り…できる…?)自分の過去はしっかり乗り越えて、今は幸せそうな子供達見てるだけで僕幸せです!幸せ家族萌え!だとか、親亡くした事に悲しむよりは、僕も僕の家庭を築くんだー!とか、そんな風にいずれはなって欲しい。まだまだ駄目な子な匂いがしまくるけど、そのうち…!バニーはできる子!(願望!) 同じ工場でホモを生産してるので腐向けにしておきました。後からあの橋は工業地区に向かう橋だと知って、朝混むのはそっち行きかー…あー…あー…
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隣の車線は郊外からの通勤者の車で混み合っていた。車間距離も取られず迫り詰まった列を作っている車のどの運転席にも、覇気の無いむくんだ顔が乗っているのが見えた。 虎徹をシュテルンビルト郊外の駅まで送り届ければ、バーナビーもそれらの列に同じように加わることになる。 どれだけの時間の浪費になるだろう。 行きの何倍もの時間を掛けて戻ることになるだろう。 自宅から直接向かっていれば、今の時間には既にデスクに座れているはずだ。勿論睡眠時間も充分に取った後で、更に何処か店に入ってモーニングメニューを頼む余裕さえあっただろう。 デスクに着いて、与えられたつまらない業務を疾く済ませた後は、スケジュールが空いていれば業務外の時間に使ってしまってもよい。犯罪者に関する情報収集。咎められはしないだろう。 『送って行く』なんて申し出をしなければ。今頃は。 「何か、悪かったなぁ」 「はい?」 「隣、すっげ渋滞」 「あぁ……」 助手席に座る虎徹は、彼は彼でバーナビーとは反対の窓の外ばかり眺めていたように見えたのだったが、反対車線も気に掛けていたらしかった。 「帰り、時間掛かんぞ」 ならば当然、バーナビーがそちらにばかり目を遣っていたのも、気付いているのだろう。苦笑いを浮かべ、仕方無く内の思いを告白する。 「同じこと考えてました」 「いいぜ、別に。こっから適当に行くし、降ろしてくれても」 「ここで?」 「……いや、ここ……だと厳しいけど、何処か……あっ、いや、タクシーでも……」 言いよどみふためいている虎徹を見守っていたバーナビーの口から、遂にこらえていた笑いが小さく漏れ出る。虎徹が口をつぐみ息を飲んだ音が聞こえた。バーナビーは笑いながら咳払いする。 「良いんですよ、別に。僕が好きで言い出したことなんですから。僕がどう帰るかより、あなたが降りる駅の心配でもしてたらどうです?」 久しぶりらしいが何処で降りるのかちゃんと覚えているのかと、嫌みっぽく尋ねれば虎徹の唇は嘴のように突き出て来る。 「余計なお世話デース」 ふてくされた言葉を返した虎徹は、また腕を枕にして外の風景に視線を投げてしまった。 以前なら、どう言い訳したのだろうか。 仕事のパートナーのプライベートの為に時間を潰す。貴重な時間を潰す。そんな無駄なことの為に。 「虎徹さんには借りがあるんです」 最も重要な、自分への言い訳。するとすれば、こんな所だろうか。 「へ?」 「一年も前の借りですけどね……僕、借りはすぐに返してしまいたい方なんですが」 「何の借りだよ、一年も前の借りって。俺がそもそも覚えちゃいないし」 「それに、虎徹さんは貸しにしたつもりも無いんでしょうから」 そして貸しにしていたとしても、それは成立しなかった。 ロイズが何気無く漏らしていたのを聞いたのだ。 虎徹が今回より前に休暇を取得して実家へ帰ると言い出したのは――正確にはロイズから取得するようにと強制したのだったが――、あの一年前にジェイクの一味が事件を起こしたその日であった。 市内を襲撃した犯人と親の仇であるジェイクが関わっているとは未だ知らず、バーナビーは刑務所に収容されていたジェイクと面会を果たす為車を走らせていた。一方では虎徹は故郷へ帰る為に。 『行けよ。20年間ずっと探してたんだろ?心配すんな。こっちは、俺がなんとかする』 召集が掛かった時バーナビーが一瞬躊躇ったのを虎徹は知っていただろうか。おそらく、知ろうと知るまいと、虎徹は一瞬も躊躇わずにバーナビーには同じ言葉を言い渡し、娘には予定の変更を告げただろう。 「また1年前みたいな事になったらどうします?」 「やめろよ。しかもこの橋じゃねぇか」 「あ、本当に」 手首に肌身離さず留められているバンド型の通信端末に目を遣る。ここならばまだ電波の受信圏内だ。呼び出しを掛けられる可能性が無い訳ではない。 「中止だ中止。そうなったら、帰るとか言ってらんねぇよ」 虎徹がそう答えるまで間があったのは迷いからではない。ごく当たり前の、敢えて言うまでも無い、聞かせるまでもない回答だったからだ。 バーナビーも、そんな答えを聞きたい訳ではなかった。 「もしもあの日のように、今、虎徹さんを送り出す前に召集が掛かったら、僕は……」 あの事件で破壊された橋の中腹を通過した。虎徹はバーナビーに相槌を打ちながら「第一関門突破って感じだなァ」と呟き、過ぎたその場所を振り返っている。バーナビーはまだ距離のある橋の終点を見据えていた。 「僕は、ここで虎徹さんを車から降ろします」 「あぁっ?」 「橋の真ん中だって構いません。引き擦ってでも降ろしますから、虎徹さんは何処かタクシーの拾える所まで歩いて下さい」 「ちょっと、ちょっと待て、お前な、」 引きつったような笑みを浮かべさせる虎徹を宥めるように一瞬だけ見遣り、その目で「戯れの冗談では無い」と告げる。 もしも今、召集が掛けられたら。 虎徹を車から引き擦り降ろす。そして単身、事件現場へ。 「虎徹さんは、予定通りにご実家へ向かうんですよ。“心配するな。こっちは俺がなんとかする”、こうですか?」 虎徹は驚きに目を丸くしてバーナビーを見ていたが、やっと「似てねーよ」と口を開きニヤリと笑う。バーナビーも釣られるようにして口端を歪めた。 「僕は道を逆走してでも、動き易いバイクを強盗してでも、現場へ向かうんです」 「おいおいおい、強盗って」 「だって、何より市民の安全が最優先でしょう?」 「っつったってなァ」 「直線距離で、ビルを破壊しながら向かったって良い」 「ははは、良かぁねぇよ。やり過ぎ、やり過ぎ」 「僕は何としてでも現場に向かうんです」 到着したら、やはり“市民の安全が最優先”。地味でも、目立たなくても、ポイントが稼げなくても構わない。市民を守る為に、5分間の能力を使う。 「虎徹さん。僕がそんなヒーローで居れば、虎徹さんは安心して僕にこの街を任せられますか?」 「バニー、お前、なぁ……」 「らしくないです?」 「ん、だな。……らしくねぇよ」 「僕じゃ頼りにならないってことですか?」 「そういうんじゃねぇって……ただ……」 「ただ?」 橋を抜けた。その先は工業地区へ入って行く道とのどかな農作地帯へ向かう道。ウィンカーを点灯させハンドルを切った。 もう少し車を走らせれば、牧歌的な風景の中にバーナビーのシュテルンビルトの都会の空気しか知らない車も溶け込んで行けるのだろうか。 虎徹はずっと窓の外を眺めている。バーナビーの側からは、横顔だけが見える。 初めて走る道に、ゆっくりと足を踏み入れる。 「また、お節介なこと、考えてるんじゃないんですか」 虎徹が身動いだ気配を隣に感じ、踏み込んだアクセルから足を離す。平坦な道を惰性で走らせる。 「どうせ、また僕に余計な心配働かせてるんでしょう……そういうのやめて下さいって言いましたよね?」 「ちっが……そうじゃねぇ、って!」 赤信号に停車する。「誤解だ」と言うばかりで、解こうとはせず、顔の奥で微かに安堵さえ見せているように感じ取れる虎徹をじっと見詰めた。 「嫌いなんです、お節介」 「分かってる、って」 手を伸ばす。また走り出す為だ。ギアを切り替え、前を向いて、足をアクセルに踏み込ませた。 「嫌いなんですよ。お節介妬かれるのも、妬くのも」 「……え?」 前屈みになりフロントガラスから覗き込むようにして空を見上げた。 澄んだ空気だ。夜には星が良く見えるだろう。どんな光景だろう。人の灯す明かりよりも空の星の光が多いというのは。 シュテルンビルト生まれシュテルンビルト育ちのバーナビーには、虎徹の故郷は想像を巡らし描いてみる以外に適わない。 「今日は雨の心配は無さそうですね。向こうはシュテルンビルトと比べてどうなんですか?最近急に寒くなったんですから、酔っ払ってそのまま寝る、とかしてちゃ駄目ですからね。それ以前に、飲み過ぎないでちゃんと……」 「バニーちゃんよ。それは、……お節介、なんじゃねぇの?」 「そうですよ」 小さな駅だった。小さくて、素朴な、何処か暖かみを感じさせる空気で、かのヒーローが10年前、数多の思いを背負って降り立った姿が容易に想像できるような、そんな場所だと思った。 「だからわざわざ、言ってるんです。もう、うんざりなんですよ。あなたにお節介妬くのは」 からかうような表情が固まっている。今度はこちらがそれを笑って遣る番だ。 「着きましたよ。さっさと降りたらどうです?僕、仕事に行かなきゃいけないんで」 「バニー、お前っ……さぁ」 「もうこれ以上、お節介妬かせさせるような顔見たくないんですから。ご実家でしっかり休んで、いつもの虎徹さんに戻ってきて下さいよ」 「お前さ、ほんっと、可愛くねぇのな!」 別れ際の虎徹は、冬の空気のようにカラッとした笑顔をバーナビーに向け、駅を行き交う人の中に紛れて行った。 空を見上げるのさえ、理由が必要だった。 人の為を思い遣るのさえ。幸せな夢を見ることさえ。息を吸い、食事を摂り、言葉を交わし、笑う。それらの全てに、生きているただ一つの目的へと繋がる理由がなくてはならない。 その思いや行為で、生を奪われた父と母の無念をどう晴らせるのか。理由がなければただの時間の浪費でしかない。 そうした自責の思いが常に付いて回っていた。 結局は自分が自分を許さなかっただけだ。 亡き父や母は責めも咎めもしていなかったのだと、20年の末にやっと気が付いた。 (休暇か。羨ましいな……) 父や母さえも何ら関わったことの無い風景が、数多くあるのだろう。休暇を取ってまでして、行きたいと思う場所は、まだ無い。ならば、取った休暇を使って、どんな所へ行きたいか、一日思い馳せ想像してみるのだって良いのかもしれない。 朝はゆっくりと起き、パソコンも付けず、勿論メールの確認もせず、車に乗り込んで、途中でサンドイッチと旅行のガイドブックでも買って――。 その時、バーナビーのズボンのポケットで、携帯電話が忙しなく身震いを始めた。咄嗟に姿勢が正される。反射的に、通話ボタンを押し耳に当てていた。 『バーナビー君、何やってるの!君は今日は休みじゃないんだからね!虎徹君の分もしっかり働いて貰わなきゃ困るんですから』 ヒーローに休みなんてない。バーナビーは苦笑いした。 ヒーローは、誰もが笑って休日を過ごせるよう働き詰め、そして自らの休みは胸に描いて思い馳せ、夢に見る。ただそれだけで。 『何?寝坊?珍しいじゃない、君が。早くして頂戴よ。スケジュール、分かってるね?』 「すみません。すぐに出ます」 朝寝坊で夢を見た。悪い夢でも、過去の夢でもない。自分の夢でさえなかった。 (虎徹さん、どうか良い休暇を) 自分ではなく他人が笑って過ごす、ほんの数時間だけ未来の夢。 少し癪ではないかとも思えたが、そういうのも20年来と考えれば、快いものである。 |
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