やがては雪も解け

 

柔らかく降り積もった雪の上へ等間隔に乗せられた足跡を辿り、心なし丸まった背中を、やっと見つけた。気まぐれに舞っていた雪は既に止み、僅かではあるが日差しさえ見られる。風も無く、空気だけが引き締まって冷たい。
「冷えるぞ」
シグルドは、丸まった背に自らの外套を脱ぎ掛けた。その時に触れた肩は、案の定、冷え切っていた。長い間そこに佇んでいたのであろう、ラムサスは、寒さの所為に関わらず元より血の気の感じられない貌をシグルドに少しだけ向け、また視線を元に戻す。
「ここは、何も無いな」
視線の先は、広い、氷雪に覆い尽くされた大地。白だけが、眩いばかりに広がっていた。
「そういうのも、良いものだ」
ラムサスの言葉に、シグルドはただ無言で横に並び、彼に良しと評された光景を眺めた。何も、無かった。雪が解ければ萌ゆる芽が根付く大地も、それを頼りに訪れた動物等の遊ぶ小川も、全ては厚く積もった雪と氷とが覆い隠し、そこには何も無い。
「そうだな、俺もそう思うよ」
やがて雪が解ける日も、来るのだろう。今はただ、眩いばかりの白だけが、視界の全てを満たし覆い隠し、何も無く、時さえ止まってしまっているかのようだった。
「しかし」
シグルドは自身の肩を抱き、雲の切れ間を見上げ呟いた。
「何も無いのも良いものだが、凍えた時に、暖を取る場所くらいはあった方がいいぞ」
ラムサスからは、ふ、と小さな笑いが漏れ聞こえ、そして続けられる。
「外套があれば十分だ」
「俺のだ、それは」
遂にくつくつと笑い出すラムサスに、シグルドは深くため息を吐いて、早いうちに屋内へ入るよう、促そうと口を開いた。そこへ、変わらずの血の気の無さのままで、ラムサスが貌を向けて寄越す。
「もう一着、持ってくれば良い」
シグルドが開いた口は、再びため息を吐くためのものになってしまった。
「何か暖かい飲み物でも、入れて来る。何が良い?」
「お前と同じで構わない」
「俺はホットチョコレートでもと、思ったんだが」
「……コーヒーにしてくれ」
「砂糖と、ミルクは」
「ミルクだけ少し」
「了解」
シグルドは冷えた肩をさすりながら踵を返し、足早に、二つの足跡を逆さに辿る。

やがては雪も解け 終
ぽぽ子


閣下が中佐w
というと、やがては解けて行くって……アッー!

シグは心から良いと思って頷いてるつもりなんですけど、私の書き方が悪いのか、私の書くシグの日頃の行いが悪いのか、嘘っぱち口先だけで「そう思う」とかぶっこいてるようになっちゃいました。デヘヘ
ゼファー王女の言うああいう感じで。閣下にゃきっと癒しなんじゃないかなって。そんで春が来たら何処か行っちゃいそう。
雪と共に、やがては溶けて行く…(中佐)透けたり溶けたり体育座りしたり大変。

2011.4.5

蛇足