お似合いですよ


2011年06月09日
至ってノーマル嗜好のおじさんと、変態プレイ好きのバニーちゃんで、多少引きながら戸惑いながら「仕方ねぇなぁ」なんて付き合ってくれそうなおじさんの年上っぷりが愛おしくて…そんなのを書きたかったのです。  【脳内兎虎兎設定】付き合ってたり恋愛感情があるわけじゃないけど時々セックスする 受攻非固定  ずっと誰かに使わせてみたいと思っていたアイテムなのに、大して魅力引き出せずすみません。もっと素敵えっちなアイテムなはずのに!

 

 

バーナビーは上機嫌だった。
「今日は沢山稼いでしまいました」
ホクホクとした表情で語るのは、午前早々に起こった事件で活躍し得たヒーローポイントの事である。
「そりゃ、良かったっすねぇ」
皮肉めかした口調で相槌を返すのは、本日もポイントゼロ、の虎徹だ。
ポイントの為にヒーローをやっているのではない。だから、自分には関係の無い話。
「オジサンにも感謝して居るんですよ」
オフィスに戻りデスクへ向かう道中、バーナビーはスキップでも始めそうな足取りの軽さで虎徹の先を歩く。
「ナイス、アシストでした」
振り返って、ニコリと笑う。
「へいへい、構わないっすよぉ、あれくらい」
アシストではない。手柄を横取りされたのだ。自分はポイントの為にヒーローをやっているのではないのだから……。
それについて不満に思いはしない。
というのは実際のところ、完全な本心ではなかったが、ただ、上機嫌なバーナビーの後ろ姿に悪い気はしない、これだけは確かであった。
カリカリ、プリプリ、怒っていられるよりは、こうして笑って居てもらう方がやり易い。パートナーとして、顔を突き合わせて居なくてはならないのだから。
「そうだ、オジサン」
「あん?」
決してポーズではない素直な笑みで居る彼は何処か幼さが垣間見え、それが彼の年頃相応の表情なのかと考える。
「午後、退社の後、用事ありますか?」
「いや?空いてるぞ」
息子、には少し大きいが。似たようなものかもしれない。
「飯でも食いに行くか?」
そう。こうして懐いてくれると、可愛がってやろうという気にも。
「えぇ、ご飯食べて、それから」
真に上機嫌なのだ。バーナビーの方からアフタータイムに関わって来ようとするだなんて。食事のまだ先、何処か行きたい所でもあるのか。『よし、パパ何処でも連れて行ってあげるぞぉ!』虎徹は今にもそんな言葉を返しそうになっていた。
「その後、セックスしませんか」
虎徹の足がもつれる。キャ、と高い悲鳴が上がる。すれ違った女性社員が、よろめいた虎徹にぶつかり掛けて、避けた拍子に書類を取り落とした。
「何やってんですか、オジサン!」
「うるせ、バニ!あ、あ、悪い悪い、大丈夫か?」
虎徹が慌てて拾い上げた書類を女性は引ったくり、ツン、と歩き去って行った。
「セッ……クスて、おまえ、なぁ」
拾い上げたままの姿勢、しゃがんだ所からバーナビーを見上げる。
「嫌なんですか?」
嫌ではないけれど。
直前に何を考えていたのか、女性とのやり取りの最中に忘れ去ってしまった“オジサン”の頭を掻きむしり、
「ま、良いっかぁ」
非常にがっかりした事は確かなのだけれど。
パートナーの機嫌が良いのは、とても素晴らしいし、コミュニケーションも必要であるし。
ちらりと彼の表情を盗み見れば、上機嫌は継続している。
「今日は僕のウチに来ますか?」
彼がそんな提案をして来るのも、貴重だ。
断る理由はない。


午後はデスクワーク。と言っても、他社員と違い、某かの重要な仕事が任されているわけでも無い。虎徹は始末書作りに追われるのが常であるが、そうで無い日はほとんどする事が無く、ネットゲームでスコアを更新するのが仕事のようなものだ。
バーナビーも同じ状況のはずだが。
「オジサン、オジサン」
モニターに顔を向けたまま、バーナビーが虎徹を呼び、手招きしている。
『見て下さい、この動画。可愛い子猫が』とでも言い出しそうな無邪気な表情で。
「何だぁ?」
キャスターチェアをゴロゴロと転がし、立ち上がってモニタを覗き込もうと、バーナビーが指を指すモニターに向かって身を乗り出した。
「良さそうなの、ピックアップしてみたんですがどれが良いですか?」
色とりどり、と表現するよりかは、毒々しいと見える色彩が散りばめられたモニター、目を凝らす。
「な、な、何、」
「15時までに頼むと、当日の内、しかも2,3時間くらいで届けてくれるんですよ」
「何見てんだ、このガキ!」
声を張り上げた虎徹に事務室内の人々の注目が集まる。バーナビーがそちらへ向けて『困っています』とでも言うように肩をすくめた。『いつものそれか』『そうなんです、いつものそれで』。そんな無言のやり取りが交わされた。
「何、見てんだよ、仕事中だろう」
「オジサンだって、何時もゲームやってるじゃないですか。知ってるんですよ」
「そうじゃねぇ、そういう問題なんじゃねぇ」
「じゃあ何なんですか」
バーナビーがマウスを滑らせる。画面がクルリと切り替わり、
「どうですか、こんなのとか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待て、ちょっと待て?」
虎徹は目眩を覚えた。首を傾げるバーナビーに、グルグルと回る視界の中から訪ねる。
「何だ?このサイトは?何を見てるんだ、お前は」
「何って……」
画面がまた、クルリと変わった。バナー広告の敷き詰められた、トップページ。
「『信頼と安心、適正価格のアダルト・グッズ専門ショップT&B』」
「サイト名が知りたいんじゃねぇ!」
バーナビーの唇はサラサラと滑らかに動き、恥じる素振りは全く見られない。
彼は、白昼堂々、アダルト・グッズショップのサイトを見ていたのだ。アダルト・グッズショップのサイトを。アダルト・グッズの。しかもそれを、人を呼びつけ、何と言ったか。『ピックアップしました』?『どれが良いですか』?
「何をうろたえているんです?」
それなのに、このポーカーフェイス。
「僕、これなんか……どうかなと思うんですが」
毒々しい色彩のグッズがモニターに写される。
「『ホンモノの馬のペニスから型取った超リアル張形、もちろん大きさは馬サイズの』」
「よ、読むな!読み上げるな!」
「ディルドは嫌ですか?古風ですがこういのも結構……」
「そうじゃねぇ!」
「はぁ……」
話の通じないこの若造と、分かり合うには、問題をひとつひとつ片付けなくてはならなかった。
虎徹はゴホンと咳払いして、まずひとつ。
「勤務時間内……だけど、仕事もしないでエロサイト見てたってのは……良しとしようか…良くないけど、な!?」
バーナビーの視線には、虎徹を訝しむ色さえ交じっている。虎徹から見れば、バーナビーの思考の方が、ずっとずっとミステリーであるのに。まずその視線に納得行かない、が続けた。
「で、何だって?これを……この中の何か、買うのか」
バーナビーの眉間に、ギュギュと皺が寄る。その表情が表しているのは、
「オジサン……こういうの、使ったことないんですか?」
明らかな、“軽蔑”だ。
「ばっ……当たり前だろ!」
軽蔑するのは、自分から、バーナビーに対してだろう。虎徹は、敢えて抱くまいとしていた感情を、今告白した。
「こんな……、この……ッ、変態ガキが!」
「変態?」
「何処でそういうの、覚えて来るのか知らないけどな、世間一般皆お前と一緒だと思うんじゃねぇぞ」
たまには、言うべきことは言ってやらなくては。この後輩が、外で恥を掻かぬ為にも。これは教育である。
「本当、恥ずかしいですね……」
「そうそう、でも今気付けて良かったじゃないか」
「恥ずかしい。本当、恥ずかしい……オジサンは」
「そうだろう、でもそういうのは誰でも………ん?」
バーナビーは頭を抱えていた。
「そんなに、オジサンが古い考えのオジサンだとはまさか、思いませんでしたよ」
「へっ?」
「何でオジサンは、そんなにオジサンなんですか!」
「はいい?」
「恥ずかしい。外でそんな事、言わないで下さいよ?」
「ちょ、ちょっと……えぇ?お、おかしいの、俺かよ!」
「そうですよ!」
余りの恥ずかしさに、バーナビーは開き直ってしまったに違いなかった。虎徹は不意の攻撃に崩れた顔を、キリリと整える。我が身素直に省みよと、説教を返してやらねば。
「変態?そんな発言をしたら、極純粋にセックスコミュニケーションを楽しんでいる若者達をどんなに傷付けるか。良いですか、ヒーローなんですよ?あなたは。子供の夢を守り、若者の展望を土台作る、ヒーローが、そんな古臭い思考の化石オジサンで、どうするんです!?」
「化石……ッ」
「最早、スッカスカですね、あなたは!」
「バニーちゃん、そこまで言う……ッ」
「だから、人気、無いんです!」
「ヒッ……!」
説教食らわせんと背筋を伸ばした虎徹の背は既に丸くなりプルプルと震え、手は顔の前で合わせられ、それはつまり、許しを請い、教えを賜らんとする殊勝な態度であった。
「別に……良いですよ、オジサンは、オジサンなんですから……仕方ないです。分かってますから」
「バニー…ちゃぁん……」
バーナビーの和らげられた声が、傷を負った心に染み入る。
「今、気付けて良かったですね。若者を傷付けてしまう前に」
虎徹は涙ぐみながら何度も頷いた。
「そうです。これは、今の若者の文化を理解する為の、絶好の機会ではないですか。さあ、オジサン。一緒に!」
モニターを見よ、と促すバーナビーは輝きさえ放ち、最高に頼もしい虎徹のパートナー、それ以外の何者でもなかった。


まず若者の生の声を聞いてみよ、とバーナビーが示したのは、購入者のレビューコーナーであった。
「『完全防水と書いてあったのですが、パッキンが甘く、結局はコンドームを被せて使用しました。防水に期待して購入したので、評価低めに付けさせて貰いました。ごめんなさい><』」
その内目についた一つを読み上げた虎徹は唸り声を上げて顎髭をさする。
「真面目なレビューでしょう。まだ変態だとか、主張しますか」
虎徹には信じ難い世界の内情が明らかになる。これが、最近の若者の傾向だなんて。開き直ったバーナビーが自分を担ごうとしているに違いない。
「……まだ何か疑ってるんですか」
「いやぁ?別に……」
「オジサンはこれだから……」
「疑ってねぇって言ってるだろ!」
じっとりとした目で虎徹をねめ付けていたバーナビーは再びモニターへ向き直る。
「今、女性向け雑誌の付録になっていたりしますからね」
これもまた、虎徹には禿げ上がる程の驚きを与える内情だ。
「じょ、女性!」
「男が買うばかりではありませんよ」
頭に浮かぶのは、一人の、女性と呼ぶにはまだ早いあの、
「あと数年もすれば……」
「か、楓をこんな!こん……な……へん……、」
バーナビーの眉がピクリと動いたのに気付き、虎徹は言いかけた言葉を飲み込む。
「『パパって、オジサンだね』」
「楓はそんな事言わねぇ!」
「別に、誰が、なんて言ってませんよ」
虎徹は思う。誰しも、な筈は無い。ただきっと、そういう層が広がりはしている。その彼らを、異端者として突き放すような心を持っていて、果たして分け隔て無いヒーローの仕事を続けられるのかどうか。
「その……中には色々、あるんだろ……?やるなら、ソフトなのに……してくれ」
「やっと分かって貰えましたね」
「馬が何とか言うのは無しだ!」
「『ディルド・ポニー6.5』?」
「無し!その名のケツに付いてる数字が何なのか聞きたくもねぇ!」
「えぇとこれは、直径……」
「聞きたくねぇって言ってるだろ!」
その後もバーナビーが虎徹に持ち出して来る商品は、どれも虎徹の理解の範疇を著しく超えるものばかりで、
「あなたの言う『変』の基準が分かりません。また勘だとか言うんじゃないですよね。少しは、定説というものを学ぶ姿勢を持って下さい!」
その日は上機嫌だったバーナビーではあったが、何分常日頃沸点が低いのが彼の持ち味故、案の定の状況に陥り始めていた。
「うるせぇ!第一、お前が選ぶのはどれもこれも――ッだぁあ、もう、分かったよ!俺が自分で探す!」
バーナビーを突き飛ばしてパソコンの前を陣取り、マウスを引ったくる。
「早くして下さいよ。15時までに注文しなきゃいけないんですから」
「分かってるっての!お前は少し、黙っとけ!」
まず見た目がグロテスクなのだ。と言うと、ティディベア型などという目眩のしそうなものが出てくる。クルクルと画面を回し、幾つものの商品を却下し、
「これは?」
「黙っとけ、って言っただろ!」
バーナビーの横入りをはねのけながらも、指された商品をクリックする。
「パールとか、ビーズ、って呼ばれていますね」
「ビーズぅ?」
それは他と比べれば、セクシャルな印象は与えない商品で、それでも体の中に入れる使い方をするのには違いないのであろうが、
「これにしますよ」
「あっ、ちょっと待て!」
「じゃあ一体何なら良いと、」
「あぁ、あぁ、良い、分かった!」
バーナビーの言う通り妥協点が見つからないので、それに決めてしまったのだった。
購入の手続きを進めるバーナビーの隣で虎徹は頭を捻らせる。
「ビーズ……?」
「やっぱり嫌だとか、言わないで下さいよ」
「違う違う、そうじゃねぇけどさ」
『ビーズ』という単語から、虎徹が思い浮かべるものは。
(楓がおもちゃのブレスレットだとか作るナントカが欲しいとか言ってて、買ってやったっけなぁ……)
あの細い腕に収まる、色とりどりの。
(あんなん、突っ込んで楽しいってのが……やぁっぱ、俺には理解できねぇや……)
注文を終えたと報告するバーナビーの機嫌が心なしか直っているように見えたので、彼が楽しめるなら良いかと、虎徹も漸く妥協点を見出したのだった。


約束通りに一緒に食事をして。
約束通りにバーナビーの家へ行き。
シャワーを浴びて。
その後は約束の通りの事をするのだから、衣服も纏わずそのままで。
「な、何だよ、それ、でけぇよ!」
既に見慣れた相棒の得物に驚きの声を上げたのでは、ない。
「大きくなんか無いですよ。極一般的なサイズです」
バーナビーが謙遜の言葉を吐く訳がない。彼なら迷わず、
「僕のの方が大きいですし」
話題に触れずとも自分からこのように言う。
「だって、ビーズ?ビーズか、それ!?」
虎徹が指しているのは、バーナビーが指に引っ掛け持ち上げている、昼間に注文した例のもの。
「珠に紐が通っている……何を以て疑いの言葉を投げて来るのか分かりませんが、昼間説明した通り、『ビーズと呼ばれているもの』ですよ」
数珠状に連なったひとつの珠の直径は約、2センチから3センチ。大小が組み合わされ、連なるその全長は、30センチ弱と言った所か。
「確かにお前のと、デカさはドッコイドッコイかもしれねぇけど、」
「僕の方が2周りくらい大きいです」
「それにしたって、長ぇよ!」
「ぼ、僕のの方が長いです」
「それは聞き逃してやらねぇからな?」
「僕のの方が」
「やかまし!」
これの何処が『ビーズ』だと言うのか。珠ひとつひとつの大きさ、そして全長。更にはその重さ。珠は金属製でズシリと重い。子供が『ブレスレット』にすれば、細い腕をへし折ってしまいそうな代物だ。
「あなたが自分でこれが良いと」
「そう……だけどよ!」
「まだ嫌だとかゴネるつもりで」
「分かった分かった、ゴネねぇよ!」
通販における失敗理由は、大方買う側の確認不足から来る。よく見れば記載されていた筈だ。サイズも、材質も。
「うん、入んねぇ事は無い。けどなぁ……」
「当たり前ですよ。だって僕のの方が」
「うるせえ」
問題は長さ。これを全て、と言うのだろうか。その不安を打ち明けて尋ねる。
当然と言い渡され、肩を落とすのだと思った。
「オジサンは初めて使うんですから。そんな事強要しませんよ」
拍子抜けするような答えが返って来た。虎徹のその反応はバーナビーにも伝わったらしく、
「えぇと……いきなり全部挿れてくれ、っていう振り……だったんですか、今のは……?」
逆にバーナビーが引いている。虎徹は振り切れんばかり頭を横に振った。
バーナビーは驚いたと呟き息を吐いて、用意していたバスタオルを敷く。それを前に胡座をかいて座り、つまり虎徹はバスタオルの上へ、と。
「まさか。一応僕だって、オジサンを気遣う気持ち、あるんですからね。初めは、1,2個か……」
ローションのチューブがパチンと開けられる。バスタオルの上へ移動した虎徹には、回って尻を向けろと空いた手でジェスチャーする。
「まぁ、3つ、という所じゃないですか」
後ろで、手の平にローションを取り出したらしい、ジュ、という音が聞こえる。
「それか……4つくらい……かな」
そして、ヌルリとした感触があった。


次にはもう、冷たい丸いものの感触。
「……ッ、嫌だな、その冷たいの」
「ステンレスですからね……逆に、中に入ればすぐ温かくなってしまいますよ」
いきます、と声が掛かる。身構えて力を込めると、何か乗り越えるようにして、グ、とゆっくり。そしてズンと落ちるように。
「は、入ったのか……?」
「えぇ。今のは小さい方のサイズですね」
「小さい?」
「大した違いではありませんが、珠のサイズが二種類、交互に繋げられてるんです」
次に来るのが大きい方だと言う。大した違いではない、とバーナビーは繰り返し、その次を蕾んだ口へ押し当てた。
「いきますね」
「お、おう……」
それは先ほどよりも確かに大きく。見た目には違いはさほど無いのかもしれない。しかし、小さな孔が受け入れるには、確実な大きさの違いが感じられる。
「ん……っ、く……」
「もう、一押しですよ」
「………くぁ、っ」
「……入りました。楽勝でしょう?」
大きさは二種類。今のが最大サイズであるから、これが入れば先にも問題は無いと言う。
しかし、身体の中に、鉄の珠が二つ。重い存在感がある。
「そうですね、重い……かもしれません」
バーナビーが珠を飲み込んだ口の回りを指で撫でた。中の珠を確認するように。ぐるりと撫で、少しばかり圧迫する。
「……ンッ…!?おい!」
「どうしました?」
「今!」
「あ、すみません。少し、指を」
「指じゃねぇだろ、今!」
冷たい感触のものが確かに入って行ったのだ。
「指……ですが?」
シラを切るつもりなのか。振り返ろうとした矢先、
「次行ってみましょうか。次も大きいのですよ」
言いながら既にもう。
「あッ、っ、っく……!」
異物を受け入れたすぐ後で、まだ僅かに開いていた孔へ押し込まれていた。
「今……3つです」
「う、嘘言うんじゃねぇ!」
「重さで、分かるんじゃないですか?」
重さは増して行く。しかし、その重さから確かな個数までは。
「抜いてみますか?」
「へ?」
「これが一つの……」
「ばっ、馬鹿、バニー!やめろ……ッ」
不意に、引き摺られるような感覚。バーナビーが、言葉の通りそれを抜かんと、引っ張ったのだ。余りに唐突で、無意識に身が縮まる。拒絶すれば余計に、
「ッあ、ッアァァ!」
「危ないですよ。抜きます、と言っているのに、締めては」
身体が締まったのを見て尚、一度中へ落とし込んだ珠を無理やり外へ引っ張り出した男は、まるで壁にでも向かって話すかのような淡々とした口調を続ける。
「分かりますね、今抜けたのが珠ひとつです。中にあるのは2つで間違いないでしょう?変な疑い持たないで貰えますか」
異論を許さぬ口振りに加え、すぐにも、
「じゃあ今のは戻しますからね」
そう言って、今出て行ったばかりのものを押し戻そうとするのだ。当然騒ぎ立てる虎徹の声には耳も傾けずに。
先にバーナビーが言った通り、既に虎徹の体内で温まった鉄の珠が、在るべき場所へ戻される。その時、再びである。
「……ッ、バニ……!」
温度に違和感を抱かないそれと、明らかに冷んやりとした、もう一つが連なって、通過して行った。
「また、お前、また……ッ!」
「何なんですか、さっきから、訳の分からない言い掛かりを付けて」
「訳が分からないのはバニー、お前だ!」
「余裕あるみたいなので次行きますよ」
「待て待て待て、聞いてんのかよ、バニー!」
「次は大きいのですよ、オジサン」
「お……っ、大きいのって、さっきからずっとじゃねぇか。最初に小さいのと交互にって、ッアあっぐ、馬鹿、2個……ッ、2個行ったよな、今っ!」
「次は大きいのですよ、オジサン」
「バニー、ストップ、バニー!待て!ハウス!お座り!お手!」
「そして、おかわりっ」
「アッ――!」



バーナビーは上機嫌だった。一仕事終え、その仕事ぶりを眺め、ふん、と満足げに鼻息を荒くさせる。
「全部、入っちゃいましたね!」
「……あっ?ッえぇ!?う、嘘だろぉ、オイ、嘘、嘘だよな!?」
「お似合いですよ」
「だからそれは答えになってねぇんだよ!」
後ろを振り返るが何も視界に入らない。そして、振り返る為に捻った腹の中には確かな異物感が、在り在りと。
「ま、まじ……」
恐る恐る手を伸ばすと、何かに当たる。輪のようなもの、それだけが外に出て居るようだ。
「鏡を持って来ましょう」
「いいって!入ったのは分かったから!」
バーナビーが虎徹の制止を聞かないのは始めから。彼は大仰にも全身鏡を、キャスターをガラガラと鳴らせて持って来た。
せっかくの嫌がらせ、否、ご好意であるので、虎徹はそこに姿を映し見る。
確かに、あの、数珠に繋がったビーズでないビーズが、全て腹の中に収まっている。
「正直、あなたには何の期待もしていなかったのですが」
「こんな事で見直されたくねぇよ!」
バーナビーは眼鏡をずり上げさせたり、蔓を摘んだりしながら、虎徹を直接、そして鏡越しに、と交互に眺めていたが、ふと何か思い立ったらしく、商品が送られて来た箱を引き寄せ探り始めた。
まだ何か、挿れさせられるのだろうか。虎徹の背中、とそして直腸にかけて戦慄が走る。
しかしそこから取り出されたのは。
「オジサン、これを忘れてました」
バーナビーが持ち上げ、滑らかな動きで、ストンと垂れ下がったのは、50センチはあるだろうか。細く長く、そして短い毛足のフェイク・ファー生地で作られた、
「尻尾です」
バーナビーは後ろ向きになって、自らの尾てい骨部分に当ててみせる。
「僕よりオジサンの方が似合いますね、この柄は」
彼がそう言う付け尻尾は、濃いオレンジ色に黒の縞が入った、
「ですよね?“ワイルド・タイガー”?」
虎模様なのである。
てっきりまた何かをぶち込まれるものと思っていた虎徹は、つい流れに任せてあっさりと承諾してしまった。
「ん……?あぁ、別に……構わないぜ?」
まぁ、そのくらい、付けろと言うならば。
何より虎模様というのが、悪い気にさせない。
「そうだな、バニーちゃんには似合わねぇよ。バニーちゃんなら、もっと短い丸い尻尾だな」
「何が言いたいんですか」
「いや、別に?」
そう言いながら、虎徹は頭の横で立てた手をピョコピョコと動かす。バーナビーの眉がピクリと動いた。
『僕はバニーじゃありません、バーナビーです』
とお決まりの台詞が返って来るはずだったのだが。
「そうですね。僕は丸いウサギの尻尾でもあれば良かったのかもしれませんね」
そう静かに言って、笑みさえ浮かべる。
「だからこの“長い”尻尾は、オジサンの尻尾ですよ」
その笑みは、爽やか過ぎて、まるでショーアップされたもののようだった。
「お、おぅ……怒らねぇのかよ……」
「無理やり全部挿れてしまったのに、まだ僕の我が儘聞いて貰えるんですから。オジサンの心の広さを僕も見習おうと思って」
「う、うむ……一応無理やりって自覚あんのな……」
調子が狂わされる。

手を伸ばし、受け取った付け尻尾の片側の端にはキーホルダーのようなフックが付いていた。成る程と、すぐに理解した。今唯一、身体から出ている輪の部分にそれを引っ掛けろと言うのだ。
「お似合いですよ」
「当ったり前よ」
それを付けて、似合うのは分かったが、それでどうするのかとの疑問は残る。
相方は、挿れて善し見て善しと楽しんだようだから、これで終わってしまって良いだろうか。虎徹にはやはりまだ、面白さが分からなかった。
「そうですね。これを挿れたままで塞がってしまってると、今度は僕のが挿れられない」
次は如何に、と疑問をぶつける虎徹にバーナビーは頷き答える。これ、と言いながら、尻尾の先を掴み軽く引いた。
「じゃ、っもう、抜くのか」
言葉が詰まるのは、バーナビーがまだその尾の先を弄んでいるからだ。彼がそれを動かす度に、根元で繋がった先の、体内の鉄の珠が存在を伝えて来る。バーナビーは微かに目を細くさせた。
「女性なら、挿れる所がもうひとつあるんですけどね」
そう言って、虎徹を仰向けに寝かす。脚を持ち上げ、今、塞がっている所と、女だったならば彼を受け入れられたであろう場所を、指でなぞる。
仰向けにされ脚を上げさせられただけでも、虎徹の中で鉄の珠はゴツ、と動き珠同士でぶつかり合い、振動を伝えて来た。
「悦い、らしいですよ。後ろに挿れたままで、こちらから攻められるのは」
「……ッ…、はっ……」
その、何も無い場所をバーナビーは指の腹で圧迫する。
「ここの、すぐ裏に、挿ってるんですよ。分かります?」
「つぁ……ッ、」
念を押すかのようにより強い圧を掛けられ、虎徹は一瞬息を詰まらせた。無理な体勢で既に前へと折れさせられている首を、小さく、何度も縦に頷かせた。
動かずに居れば、ただ満杯の苦しさが腹にあるだけだが、少しでも動かせば、別の感覚が生まれる。ましてや、バーナビーが指で押す場所の、その皮膚で閉じられた更に奥には。
「この奥には、あなたの大好きな場所……感じる場所がある……分かりますよね」
「……ぁ、…っあ、……くっ……」
眉を寄せて歪めた顔で、また頷く。中でその場所のただ隣にあった珠に、バーナビーが外から指で圧を加える度、その壁面が押し付けられる。
バーナビーはただのその指一本で、外から何も無い場所を触れ圧迫していただけだ。虎徹のペニスは熱を集めて膨張し、腰と首を折り曲げさせられた自身のすぐ鼻先で、ヒクリと痙攣した。
バーナビーが指を離した。折り曲げさせられていた身体も、解放されて伸ばされる。代わりに、彼は虎徹の手を取り、引き起こした。
「塞がっていてはどうしようもありませんから。今日はオジサンが、僕の方に、挿れて下さい」
「……ッへ?そ、そうなる、の……?」
座って向き合って、真正面でバーナビーが上機嫌の表情で頷く。
「これ、後ろ、挿れたまんまで?」
「はい」
握手でもするように、ぎゅ、と勃起したそれを握られた。
「お願いしますね」
「お、お……う……?」
挿れる側でこんなに不安を感じるのは、何年、否、何十年ぶりだろうか。


身体を動かすのだけでも、無理があった。腰を揺らす、その度、内から虎徹を攻めるものがある。
「ッあ、は、はッ、く、……っ、ッ……」
「オジサン、そんなんでは……」
「……は、ッか、ってるっつの、だから……ッ」
「僕が全然足りないですよ、」
「あッ――、っ、ふっ……あ、ァアっ……バニー、止めろ、っ……、」
抽送を繰り返す、その度、押し返される自身ペニスの根が、身体の中の珠とはまた別の側からその場所を刺激するのだ。まるで挟み込むようにして、強烈な刺激が虎徹を襲い、更に、
「締め……、締めんじゃね、バニ……ッ」
普段そちらの立場をやれば、マッサージチェアに腰掛けたマグロのように何もしない男が、虎徹を揶揄するような視線を愉快そうに送りながら、そこを締め上げたり緩めたりとの仕事に健気なまでに取り組み、反応を楽しんでいる。
可愛げがないのは、持ち味と割り切ってしまったから。普段はそのマグロ相手に、いかにして可愛げを引きずり出してやるかが、挿れる側になった時の虎徹の役目であり、先輩としての意地の見せ所であり、歳の功の披露の場であったのだが、
「……あ、ッあ、ァ、くそっ……、悪ぃバニー、」
「駄目ですよ」
「……ッ駄目って言われてもな!」
達してしまうという以前に、腰が抜けてしまいそうだった。動けない。軸となる脚が既にガクガクと震えている。
「……ぁ、……っ、ぁ……」
挿入したまま、バーナビーの顔の脇に手を突いた状態で俯き、朦朧としていた。瞼がいつの間にか閉じていたらしい。首に腕を回され驚き、それを見開いてからその事に気が付いた。
「無理、まじ、無理……」
「情けないですね」
「……って、めが……、ッ!?」
虎徹は再び驚き、今度は身体を大きく震わせた。
「……ッ、何、」
「何でもないですよ」
バーナビーの片手が、虎徹の腰の辺りへ伸びて来たのだ。身体を捩らせようとすれば、また腹の中であの感覚が鮮烈に虎徹を攻める。
「本当に、も……ッ、何かすんじゃね、ぞ、今……ッ」
「何もしません、ってば」
首に回された方の腕には、甘美さの欠けらも感じられないような、男そのものの力が込められていて、無理やりに虎徹の身体を引き寄せようとしている。
鼻先を擦りあわせて、バーナビーが囁く。
「動けないなら、せめて……キスが、欲しいです。ねぇ、“先輩”?」
ザッ、と耳鳴りがあった気がした。それほど強烈に、一瞬の間で虎徹の頭から血が引いた。ショーの為に用意された、バーナビーのこの声、この言葉、この表情。『何もしない』筈がないと、彼は宣言したようなものだ。
「あ、」
上体を、バーナビーから無理やり引き剥がした。腕力ならば、この若僧よりも上である。腕も床に突き安定している。
引き剥がした瞬間に、舌打ちさえ聞こえた気がした。
何を企んでいる、このガキは。
「逃がしませんよ」
バーナビーは氷の視線で虎徹を見上げ、口端を歪めた。虎徹は目を見開いて、目の前の彼、ではなく、背後を振り返った。
「僕のちょっぴり“おいた”な脚が、」
「俺のカラダを完全ホォルドぉ!?」
腕力は、上であるが。彼の脚力には。
バーナビーの誇る長い脚が、虎徹の胴を逃がすまいと捕らえ、咬んでいた。それを確かめる為に振り返った視界の中で、虎徹は、バーナビーの真の企みを知らされる事になる。
「……ッ、な!?」
「つッ……か、まえました……よっ、と……」
「は、離せ……ッ、お前、まさか……っ!」
「えぇ、まさか……と考える通り、と思いますよ……やっと気付いたようですね」
「ば、馬鹿、馬鹿止め……!」
バーナビーが本当に捕らえようとしていたのは、虎徹の身体ではなかった。それはただ、引き寄せる必要があっただけ。彼が必死に手を伸ばし、掴み取ったのは、
「引っ張ん……な! し、尻尾、尻尾ッ、まさか最初からこの……っ!」
「本当に、お似合いですよ!」
兎の尻尾のような、小さな尻尾では用が足りなかったのだ。バーナビーがその体勢でも、掴み、そして引っ張ることができる、長い長い虎の尻尾でなくては。
「当然。これをしなくて、何の意味があるんです?入れて楽しむものじゃありませんよ、この玩具は」
尻尾を掴んでいるバーナビーの腕を、次の行動を阻止する為押さえつけようとした。
「ッあ、ぁあ!」
矢先だ。身体の中で、異物が鎌首をもたげた。
「オジサンは、本当に無知のようですから。真の遊び方を教えてあげますよ」
「待て、まっ……ッ、あっ、はッ、ア」
全てくわえ込み、すっかり閉じていた口が、内から押し広げられる。
「最後に入れたのは、大きいのでしたね」
「や、や、止め……ろ、ッ」
「大丈夫。大きさは二通り、交互にです。これが出てしまえば、次の小さいのも一緒に出てしまいますよ」
「バニー、バニー…!」
「その次も、最初のと同じ大きさですから、一気に、行けますよね?」
「頼……ッ、あっ、あ……!」
「棒状のと違って、緩急付いていて、堪らないですよ……さぁ、」
虎徹の目の前によぎったのは、走馬灯だったかもしれない。
この男との出会いは、そう、この腕にガッシリと抱かれ、そして次にコンビを組む事になったと言って現れた時の、いけ好かない程の、あの爽やかな表情。確か、丁度こんな感じの。
「行きますよ、オジサン!」
「ちょ……お、おま……ッだアァ――ッ!!」


全て夢だったかもしれない。
指で探りなぞられるだけでも、視界が飛んでしまいそうな身体の内のあの部分を、幾多もの鉄の珠が重軽の変化を付けて引きずり抜けて行った感覚と、その口では、まるで強制的な――いや、夢だったのだ。そして裸で床の上で寝てしまうとは、我ながら全くだらしがない。酔っ払ってでも居たのだろうか。酷い夢を見たものだ。
次の眠りは、そのような夢は見ぬようにと願いながら、虎徹は寝返りを打ってみた。
「何時まで寝てんですか、オジサン」
「ンギャん!」
バーナビーから容赦無い蹴りを食らった虎徹は、尻尾を踏まれた家猫のように悲鳴を上げ今度こそ夢から引きずり出された。家猫らしく従順に、決して唸り声は上げる事なく、しかし心底恨めしい目つきで見上げた先に立つ彼は、既にシャワーを済ませた様子で、肩からタオルを掛け下着一枚で清々しい出で立ちになっている。
「イキながら気失う……とか有り得ませんよ。エロマンガじゃあるまいし」
男は更にこんな事まで、しゃあしゃあと言ってのける。
「起きて、服を着て!迷惑なんですよ、こんな所に何時までも寝て居られたら。これ以上、僕のプライベートな時間を邪魔しないで下さい!」
娘よ、世には二種類の男が居て、だな。
虎徹は投げつけられた衣服をもそもそと身に付けながら、胸の内でまだ9つの愛娘へ語りかけた。
一方は、情事が終わると途端に相手を邪魔者扱いして、先に囁いた愛も何処へやら、用済みだとばかりの態度に豹変する者。先っちょだけ、とか、みんなやってる普通のことだから、だとか、言って来る者に多いかもしれない。カラダ目当て、という奴だ。皆がやっていたとしても決してノーマル且つソフトなプレイとは限らないし、先っちょだけ、1,2個だけ、という約束が守られる事はおよそ千年に一度の珍事だ。

バーナビーに蹴り転がされながら、虎徹が辿りついた先は、寝室である。
そしてベッドサイドに用意されていた寝酒の一杯をキュッと煽り、一人しみじみと溜め息を吐き、胸元に付けられた鬱血の跡を眺めた。
もう一方の男は。
情事が終わった後も、その余韻を楽しむかのようにその最中以上の甘い態度で接し、甲斐甲斐しく身体の具合を訪ねたり、何かと世話を焼こうとしたりと、至れり尽くせりのサービスを始めようとする者。
(もう少し素直なら、可愛いもんなんだけどねぇ)
虎徹は、まるで入浴を済ませたかのようにサッパリとした身体を、綺麗にメイキングされたベッドの中へと潜り込ませた。目を閉じたかどうか、それすらも分からぬ間に、心地良い眠りにいざなわれていた。