キャットファイト

「眠っているのか?」
足を投げ出して床に座り、首を垂れているその男が、起きてるのか眠っているのか、前に立ち見下ろしているカーランからは判断できなかった。だから、そう尋ねた。男は沈黙したままだった。屈み、覗き込む。また尋ねる。目は開いたままだった。
「飯だ」
淀んだ瞳がかすかに浮いて瞼の裏を見ていた。今は無理だ、また『次の時』にしよう。そう考え、カーランは立ち上がろうと床に突いた腕に力を込めた。
ふ、と短い呼吸音、ガサリとブッシュの中をかき分けるような、身じろぎ。

突いた手を離し体の前へ、宙を切り裂いて鈎爪、そのものの、バリバリとささくれ立った皮膚と骨とえぐり取る、力、眼光、ギトリと回転した瞳が潤々と輝いて舞い戻る。
飛び退いた。床の上で数度足がバタ付き、脇腹を引きつらせながら身を捩り、汗ばんだ手の平がビッと音を立てて摩擦し、引き寄せた腕には掻き傷が刻まれた。
「………っく、ぁ」
膝を打ち付ける。その足首を掴まれ、引き倒されて次は顎を打ち付ける。起き上がる頭を押さえつけられる。払った肘が男の頬にめり込んで具合良く収まり、それをそのまま振り切った。跳ねとんで、ゴムボールのようにグニャリと歪んで、また跳ね返って来る。顔面を蹴り付ける。後退って、後退って、肩をソファテーブルに打ち、振り返って探る。何か無いか。掴み取って、
「あ、あ、ぅ、ああああ!」
振りかざした缶切りの刃が、掴み掛かりに来た男の腕の皮膚をブチリと捉えズズズズ、と引き裂いた。朱が散る。男が身を引く。
「はっ、はっ……ぁ、っは、……」
見開いた目だけを使ってせわしなく辺りを見渡そうとしている男を取り押さえようと、カーランは体勢を起こし、再び挑む。血の溢れ出る腕を掴み束ねると、男が絶叫を放った。
「スウチ?ヘンソク?キロク?」
「違う!」
「フカ?キョウ?アッ、ジ?」
「終わり、だ」
「アッ、ジ?リ、レジ?」
「無い、終わり、だ!」
「ナイ、ナイ、ナイ!ナイ!」
目の色を変えて無茶苦茶に身を捩る男の腕が血に滑って外れ、広がる朱に、また目の色が変わる。
「<欲しいか、欲しいか!?何が欲しいんだ!何も無い!全部無くなった!>」
男はカーランに馬乗りになり、自由な言語で責め立てる。
「<血だ!朱い血!湧き出る!無くならない僕だ!くれてやろうか!さぁ、さぁ!>」
「…ッ、ひ…!」
男が血濡れた手でカーランの口を塞ぎ揺さぶり、塗りたくっても飽かず、パクリ開いた傷口をなすりつける。捲れた皮膚がベロベロと唇をなぶり、中の柔肉が絡む。ぐちゃぐちゃと口当たり良く、むせかえる芳しい血肉の、糧、魅せ付け与えられ、
「<生きなきゃならない!>」
ぷつんと管を通されたように呼吸が軽くなり、同時に、雄々と食らいついていた。首を振り、哮り声を上げ、牙を剥いて飛びかかる。
ゴッ、と鈍く。

男が沈黙した。

『元の所へ、棄てて来なさい?カーラン』



どのくらい眠ったのか。
眩い白い光の中に、色彩が灯る頃、その疑問は変化した。
眠ってから、どのくらい経ったのか。
捲くというより、締め付ける、という具合にきつく捲かれた包帯に、それでも大量の血が滲んで、しかしそれはまだ鮮やかで、たった今だ。何かがあったのは。
跳ね起きると視界がぐら付き、貧血と、他にも何か原因があるように感じたが、それよりもすぐ傍に居た男が、自分の動きに反応して咄嗟に身構えたことが気に掛かった。
何かがあったのではない。何かしたのだ、自分が。
身構えた男はシグルドの表情を見て、すぐにその緊張を解いた。そして尋ねるまでもなく、直前の状況を説明した。
「発作的な暴走。呼びかけにもまともな反応を示さなかったから、強行的な処置を取った」
続いて、自身の後頭部を指し示して尋ねる。
「<吐き気、目眩、あるか?>」
ぶるぶると首を振ると、目眩と吐き気が同時にシグルドを襲った。ようやく自覚した後頭部の痛みも共に。
そんな事は、どうでも良かった。気に掛かるのは、
「ソンショ、ヒガイ?」
にじりよって、男に怪我がないかどうか、自分が何か傷を付けたのではないか、確かめようと手を伸ばした。
そのシグルドの手を振りほどくように男は立ち上がり、なんともない、と首を振る。
「セジョチ?」
「正常値」
「キョギ」
「違う。この程度だ。なんともない」
男が捲って見せた腕にはミミズ腫れが3本、痛々しく残っていた。シグルドは息を呑んで認め、しかし本当にその程度なら、と安堵する。
自分が想像するよりは、酷い状況ではなかったのかもしれない。そうでなくても、おそらく上手くスムーズに対処してくれたのだ。

頷いて、微笑んで見せて、その傷の手当てをさせてくれと、ジェスチャーを交え片言に伝える。
シグルドのその様子を、男は眉ひとつ動かさず見下ろしていた。

キャットファイト 終
ぽぽ子

 

ノルンの悪魔……なーんて……(エルルは出身地と違います

無様に「うっ!た、た……うわあーーーーっ!!」なんて叫んじゃうようなカール
あれあってこそ、魅力的なカールだよな…っ!?と燃えて、燃えてその熱意だけ……伝えたく…伝わらないかorz

シグは天才肌の子、カールは努力の子だと思うのです。
つまり、努力であそこまでのし上がった、じゃなきゃ元々は凡人とほとんど変わらない能力だったりしても……なーんて…
カリスマ性みたいなそういうのは持ってない子で。
「全ての人を超越した」というのはカールの思い込みでしょう…?
アニマの器との同調率が100%なのとカインと組成が一緒?あとは一次成長期以降の成長スピードが早い?
それ以上の能力については、特別に…スペック高く作られた、とは限らないんじゃないかとか、
作られてても良いですが。ある程度のスペックは持ち合わせてたと思いますがw
融合したのも、丁度そこに現れたベッカー少年で、またその子の能力が高かったとも限らなくて……
カール平々凡々説、ちょっと面白そうかな、と思うのです。

自らが努力で作り出した優秀さなら、しっかり自分のものにするまでは綻びもありますよね。
怖い事あれば怯えるし、びっくりする事あれば驚くし、そんな普通の子が、必死に「全ての人間超越した」自分になりきろうとしてたら…!あああそれこそ、魅力的なカールじゃないですか…っ これは無様カールも、書かなければ!という熱意、形に……もう…塵………

そんなんで、咄嗟の予期せぬ事態には弱いんじゃないかな、と…
弱いけど、そんな自分認めないよっ、俺は全ての人間超越した冷静沈着勇猛果敢ニンゲンだもんね><

とまぁ普段の運びに、なってしまうんですが……

それとタイトルこれしか思い浮かばないって、もう、生きて……塵……
カールを性的な目でしか見れません>< にゃんにゃんとちゅっちゅしたいよぉ〜

2010.10.22 完成