流れるキラキラ
寿司。 人の性質や環境によって差異あれど、まずまずの誰しもが、表情をぱっと明るくさせる食べ物。そう表現しても良いのではないだろうか。ほんの数年前までは本当に高級品であった。近年ではすっかり一般に広まり、安価に食べさせる店も増えた。されど寿司は寿司。高かろうと、安かろうと、寿司は寿司である。 庶民が寿司を口にする場所として、ひとつ。筆頭に、『回転寿司』というものがある。 目の前のカウンターに、ここソラリスを代表する装置『ベルトコンベアー』が設置されている。その上を、生の…ミンチ肉ではない。生の魚介類を使った寿司ネタが、ヌメヌメ、いや、キラキラと輝きを放って行き交っている。今まさに、霧吹きによって新鮮さを与えられたかのように。 誰もがぱっと表情を明るくさせる食べ物。ひとりでは食べきれない程の量の、寿司ネタが、まるで無限に湧き出ているかのように、目の前を行き去ってはまた次が通過して行く。しかもそれは、手をほんの少し伸ばせば取れるのだ。取って、己が口へ、運んで良いのだ。 この美しく輝く、生の魚介類を使った、寿司ネタを。 「カール!そのユッケ軍艦、取ってくれよ」 「これか」 「サンキュ。あと今来るその…」 「湯葉握り」 「そうそれ!カールも食う?」 年度末の試験期間を終えた後輩三人を労ってやろうと、ジェサイアが彼らを連れて訪れたのが『回転寿司』だった。そう、彼らも例外なく、その言葉を聞くと表情をぱっと明るく…させなかった者も一人居たが、その一人も決して暗い顔はせずに付いて来て、こうして行き交う寿司ネタを前に一列に整列し座って居た。 一番右端に座ったカーランが、湯葉握りを一貫摘み頬張る。 「美味ぇのかよ、それ」 頬を膨らませたカーランはモゴモゴと口を動かしながら肩をすくめ、「さあ?」と首を傾げて応えた。 「寿司食いに連れて来たんだ、寿司食え寿司!ちゃんとした寿司らしいネタを!」 カーランから、一貫残った湯葉寿司の皿を受け取りながら、シグルドは反対の手でユッケ軍艦を摘み、醤油をチョンチョンと付けながらベラベラと語り出した。 「普通の寿司ネタなんて、出前で食べ飽きてるんですよね。回転寿司に来たからには、回転寿司にしか無いネタ食べなきゃ。それにしても、今時の主婦ってふざけてると思いません?出前はあるし洗濯機はボタンひとつで乾燥までやってくれるし、この間は全自動掃除機なんて代物見たんですけど、奴等正気ですかね。ラケルさんも欲しいとか言うんですか?」 ジェサイアの一番良く知る主婦は、もやしと豚肩細切れで最高のご馳走をこしらえ、家族が汚した靴下をひとつひとつ手揉み洗いし、床は埃が舞わぬように濡れた雑巾を使って掃除する。主人が留守の間に学生の若い男を部屋に連れ込んで出前の寿司を食わすような、化粧臭いメスブタの知り合いは居ない。 シグルドの横顔を睨みつけながらこめかみに青筋浮き上がらせるジェサイアのすぐ脇を、キラリと光る円盤がふっと掠め通った。 「ヒュ…!お前、金の皿のは、駄目だって言っただろう!?」 「えっ?…あっ、スミマセン!」 目をまんまるに見開いたヒュウガが、黄金色の皿に乗った黄金色のウニ軍艦とジェサイアを見比べ、いかにも「しまった私としたことが」とでも言うように口元を手で覆っている。 「美味しそうで、つい…手が伸びてしまって…」 三層で暮らして居た頃は寿司なんか食べた事がなかった。そうしんみりと語りながら、ヒュウガはサッサッと手際良く黄金色に輝くウニ軍艦を口へ運ぶ。 「でもお寿司っていうものは知っていて、憧れていましたね。どうしても一度食べてみたくて。見聞きしたものを真似て、ご飯握ってその上に家にあるおかず乗せて…なんて、ナンチャッテのお寿司作った事があったんです。それはそれで凄く美味しくて楽しかったんですが。でもこんな風に、本物のお寿司が食べられるなんて、その頃は想像もしなかったなぁ。」 「ああ分かるぜ。寿司っていうだけで、嬉しいもんだよな。だけど金の皿はそれだけにしてくれねぇかな」 高級なネタでなくても良い。安くて美味しい、ジェサイアは寿司ネタの中でも、それを代表するネタ、イカが何より好物だった。あの白くつるんとした曲線。柔らかく、それでいて確かな歯ごたえのある食感。そして、あのほんのりとした甘味。寿司と言えば、まずイカだ。イカ、イカはまだ流れて来ないのだろうか。 「カール、イカ好きなのか?さっきからイカばっかり食ってるな」 首を痛めそうになる程の勢いを付けて右を向くと、今まさにイカの握りに手を伸ばすカーランの姿があった。 「イカは脂肪分の少ない優秀なタンパク源だ」 「イカオクラ軍艦っていうのがメニューにあるぞ。次来たら取ってくれよ」 「オクラに含まれるムチンという成分は肝機能を高める作用があると言われているな」 「てめぇらは寿司なんか食わねぇでプロテインに×××汁でも絞って飲んでろ!」 カウンターに拳を叩き付けて声を張り上げるジェサイアの横を、また黄金色の円盤が掠めた。 「ヒュウガ…!」 「あっ、スミマセン。つい美味しそうで」 「それはさっきも、」 「シグルド、イカオクラ軍艦が来たぞ」 「食う食う。あ、その次またイカ来るじゃん。俺そっちも食いたくなっちゃった」 ジェサイアはうなだれ、広く空いた己の前のカウンタースペースへ額を打ち付けた。こんな奴等、もう二度と連れて来るものか。そう誓いながら。 「ジェサイア先輩。ひとつ、食べます?」 うなだれた顔の横に、ツツッと、黄金色の円盤に載せられた真珠のように白く輝く大トロが押しやられて来た。 なんと優しい心遣い。会計時には一銭も払わず、尻尾さえ見せずにどこかへサッと消えてしまうこの後輩が、取るなと釘を刺しておいた高級ネタを、最後に金を払う自分へひとつ分け与えてくれるとは。更には、こんな言葉まで付けてくれて。 「ちょっと油が乗り過ぎてて、気持ち悪くなってしまいました」 ジェサイアは両手で顔を覆い、メソメソとしとやかに涙を流した。 「先輩?ワサビですか?」 シグルドのお約束ネタは、聞かなかった事にした。 |
すみません!
原作レイプというものがありますが、まさしくこれは、二次創作レイプの三次創作です…!
ネタだけかっさらって、俺ペンキをぶちまけるどころかこねくりまわして骨組みさえ残ってねぇよみたいな、そのあの、
ご本人のファンの方にも石投げられるの覚悟で!!
そうです、元ネタがあるのです。
元ネタは、10/10のスパークでam5のづん様が出された、ゼノ旧エレ本『PERFECT
STAR』の中にあった1枚のイラストでした。
読まれてない方も多いようなので、詳しくは書きませんが、「旧エレde回転寿司」その文字と、旧エレが回転寿司に立ち向かっているイラストが…!
それに萌え滾った私に、更にづんさんがそのネタが生まれた由来を教えてくださったのです。
「回転寿司なんだから回転寿司にしかないとんでもメニューは食べておこうという謎のポリシーでよく食べてます(笑)」
もう、なんだか、妙に納得してしまって…!w
おすし屋さんに来たのだから、ナマモノ食べなきゃ、そう思い込んでいた私には衝撃でした。
そう、そうか!そうだよな…!
そしてそのまま、シグルドがそう主張する光景が浮かんでしまい…
翌日、仕事の行き帰りのバスの中で、もの凄い勢いで書きあがってしまったのがこれですorz
すみません!
づんさんのネタなのに、完全に、私の話です……うちのメス猫(カール)が、シグの隣に陣取っちゃうのが、まずいけない。
と言いつつ、ご本人に見せてしまって、更にはこうして公開してしまうのだから、何も言い訳できないと思います。
ヒュウガはどこまでいじって良いのか、分かりませんでした…!ちょっとソフトにしたつもりなのですが…アウトーでしたらすみません!
カールならいくらでも弄っても良さそうなんですけどね!ww
づんさんの御本『PERFECT STAR』はおめでたく、そして悲しい事に、現時点で完売されてしまったようです。
もし再販される場合は、どうぞ是非!私からも強く強くオススメさせて頂きます!
そして新刊の方も、応援させて頂きますっっ
づん様Webサイトam5へはリンクページ、もしくはこちらからどうぞ!
10.10.15 完成
ぽぽ子