さようなら
終焉という未来を看過していたのではない。 ただそれは、あまりにも壮大で漠然とし過ぎていて、夢想的で、終わり無き未来という極めて日常的な結果を手にした今になってやっと、真逆のそれがどんなに恐ろしい非日常だったのかを実感として得て、喜びと共に胸を震わせていたのだった。しかしこれもまた、人が感じるには壮大過ぎる未来で、注視すべき目先の現実は夢想の如き波の中に紛れ漂い、定まらぬようにさせられていた。 この身に明日がある。それが如何なる現実を指すのか、今はその響きがもたらす心地良い揺らぎに、全て委ねていたかったのだ。ほんの一日、いや数時間だけでも構わない。何も案じず子供のように、手放しに、喜びをこの身一杯に満たしていたい。 その心情を打ち明けると、酷く呆れられ、小言を並べ立てられた。それすらも、今は波の中で揺らめいている。 「俺は動く艦を導くのが仕事だから。動かないものは、どうしようもない」 子供でも、もう少しまともな言い逃れを考えるだろう。 反論するシグルド自身の口から既に、自嘲の笑いが愉快そうに漏れていた。 「最高責任者ではないし」 「最低だな」 厳しく、と努めていただけだったのだろう。小言を並べるラムサスの緊張も、その行為の馬鹿馬鹿しさに気付き、簡単に破綻してしまったようだ。言葉尻には既に、シグルドと同じく笑いが滲んでいる。 「こんな男を、部下に置いておかないで正解だったな」 「でも置いておきたかったんだろう?」 「言うようになったじゃないか」 未来を湛えた大地には、人の持つ何もかもが小さく、可笑しかった。 それを素直に、許された時間の中で存分に、笑い合った。 「これももう、動かなくなったみたいだ」 シグルドが取り出し、ラムサスの目の前へ掲げて見せたのは、愛用のレーザービュートだった。十年以上身体から離したことがない。十年以上前、与えられたその日から常に。 「そんなもの、まだ持っていたのか」 与えた側は忘れ去っていた程だ。一目では分からず、目を凝らし、記憶を巡り、漸く何だったか思い出したようだ。 「今まで動いていたことの方が驚きだ」 「最近では使う機会も滅多に無かったんだがな。毎日動作確認はしていたし、ついさっきまでは問題なく機能したはずだ」 故障にも何度か見舞われたが手放せず、修理を重ねこんな所まで連れ添ってしまったと、シグルドは語った。 ラムサスはそれを手に取り、それ自体が動いていたという事実が余程意外だったようで、そのことだけをしきりに感慨深そうに、信じ切れないといった様子で観察していた。 「子供の工作みたいなものだぞ」 十年以上も昔の、ラムサスによる自作品だった。一からではなく、既存の機器を武器として改造したものだったが、実験的なもので、ラムサスが言う通り今になってみれば“子供の工作”程度の代物だった。 シグルドのエーテル特性の弱点を補う為に、それは作られていた。シグルドのエーテル値は潜在値が高く、また出力にも長けていた。ただし、発動に至るまでの充填に時間が掛かる。そのタイムラグの発生を無くす為の装置だった。ビュートの起動と共に即、シグルド自身の持つ潜在エーテルに反応して、レーザーとして具現化され、武器として振るうことができる。そもそものエーテル値が低い者が握った所で、単なるライト代わりにしかならない。そしてゾハルの機能が停止すれば当然、光すら灯らなくなる。 ラムサスは何度か無意味にスイッチを動かしていたが、単なる筒となってしまったそれを、ついには名残惜しそうな素振りすらも見せずにシグルドへ軽く投げて返した。 「色々な事が、終わったんだな」 始まりであり、終わりであり、何かが生まれ、何かが失われた。 シグルドが振りかぶる。握りなれたグリップは手から離れ、空で弧を描き、大地の中へ消え去った。 「環境破壊だ」 「何、虫か何かが住処にでもするさ」 与えられた明日を迎える為に。 「さて、どうするんだろうな。これから」 今はただ手放しに喜ぶ者達を眺め、人事のように呟いた。 さようなら |
フッた方が引きずってる。
レーザービュートの話も脇役ながら随分引きずったけど、これでおしまい!
実は3作品に渡ってました。そんな続けるつもりもなかった思いつきの小ネタなのでくっつけると矛盾があるかもですがw
素直に考えるとレーザービュートが自作だとしたら、ヒュウガの作品ですよネー
それだとシグラム的に野暮なので目をつぶってくだしあ
カールが環境破壊だとか…言わないよね…粛清!粛清!ヒーッハァー!
2011.4.14