アイイロ
粘液に湿り、暗く深く、鼻を刺激する酸の匂いさえ微かに発し、ただ不安を覚える程熱いという事以外、何も変わらないように思えた。同時に、そんな場所がここに存在してはならない、とも。 熱に怯みながら、それこそが無くてはならぬものだと言い聞かせ、ラムサスはそこを埋めて行く。入り込んだ空気が、音を立てた。一歩、また一歩と、厚く溜まったへドロに慎重に足を踏み入れる、その度に、靴底とヘドロの間で空気が弾けるのだ。目指しているのは、前なのか下なのか、その奥。底知れぬ嫌悪の終点を確かめたい。 「カール、キスして頂戴」 背中を押されて前倒しになり、鼻と鼻を触れ合わせ瞳を覗き込む。 「ミァン」 藍の色は何も映さず、暗く深く、全てを呑み込んで尚何かを欲していた。 「もっと、私を見て」 口付けはしなかった。素振りだけ掠めて、耳を澄ます。オンオンとファンが唸る。グボと足音がまた一歩近づく。来い、来い、その奥だ。何を迷っている。 「ミァン。お前は、俺の赤ん坊を産みたいと思うか」 体液でベットリと濡れた体毛が張り付いた恥部を、手の平でさすりながら尋ねた。ミァンは目を細め、ふくよかな唇をすっと横に引いて答える。 「貴方が望むなら」 手をずらした先にある柔らかい肉は、再びラムサスを怯ませた。力を込めると、柔らかい肉の下には幾らか硬い感触のものがあり、時折ビクビクと蠢く振動が確認できた。 来い、来い、迷う必要は無い。 深く突き立てた、終点のその先。何度も突き、深く、抉り、引いては勢いを付けて硬く閉ざされたその入り口を突き続けた。 赤ん坊がぐずっている時のような調子の、途切れ途切れに高い声、嗤い声が耳朶で響いた。 「カール、もっと、もっとよ」 嗤っていた。口を大きく開き、仰け反って、腹を痙攣させ、嗤っている。痙攣する腹を抱えて、高い嗤い声を収める代わりに、今度は目を細め唇を横に引いて微笑み、静かに言葉を放った。 『私の子よ』 皮膚に青筋が浮かび上がる程肥大した、醜いぼて腹をさすり、繰り返し言い聞かせた。 『私の子が、ここに居るの。私達の期待に、この子ならきっと答えてくれるわ。だから用済みなのよ。ここは、あなたの場所ではないの』 「そう、そうよ。悦いわ、カール。そうよ、もっと」 『それでいいのよ。もっと追い求めなさい。決して、得られない愛を。』 せいぜい、硬く閉ざされた扉に汚液をぶちまけるくらいの能しか持たぬ、廃棄物なのだから。唯一の使命を、全うなさい。 腹に突き立てられた剣を引き抜くと、熱い体液がどろりと溢れ、ミァンはその場にくたりと横たわった。 「カール。凄く、悦かったわ」 熱い体温と柔らかい肉の感触を腕にきつく抱いて、ラムサスは眠りに付いた。 アイイロ 終 |
2010.10.1 完成