メンズ・ラブ

ラムサスとシグルドは二人で一つのベッドに居た。どのような経緯でそうなったかは、省略する。ここで重要なのは経緯ではない。
視るべきは、どちらがどちらに挿入するか。十年余ぶりに再会した二人に、とうとうその問題が発生したのである。
何故急に、そのような展開になったのか。異を唱えたのはラムサスであった。今回は己が挿入する番であると。
番。役回り制とは想像だにしなかった、自称『バリタチ』のシグルドは仰天した。それを主張する理由は何か、聞かせて欲しい、そう乞うシグルドにラムサス応えて曰わく、
「童貞ではなくなったから」
感激の余り涙を流さんばかりの、素直な答えであった。告白する彼の勇気に、実際にシグルドは瞳を潤ませた。
「童貞の処女食って…すまなかった…」
「全くだ」
シグルドは折れた。彼の勇気に感服して。罪悪感も、ほんの少しだけあった。ほんの少しだけ。

斯くして、挿入権はあっさりとラムサスに渡ったようだ。のらくらと服を脱ぐシグルドを見届け、ラムサスも「さて」と腰を上げた。
「待て、待て。いきなりは入らないからな」
「ふむ、そうか」
ラムサスがシグルドの太股に手をかける。女でも前戯というものが時に必要だ。心得ている任せろ、と言わんばかりに。非童貞は、伊達じゃない。
「違う、そうじゃなくて、待てカール!」
ベッドの上を這って端まで逃げて行くシグルドを、まだ決心が付かないのか、とラムサスは仏頂面で見送る。
しかしシグルドは何やら小さなボトルを手にし、素直に戻って来た。
「何だ、これは」
それを渡されたラムサスが眉間に皺を寄せて観察する。
「潤滑油」
その答えに、皺は一層深くなった。
「カール。言いたい事は、分かる」
「十年前、お前は一度もこんなもの…」
「分かってる、って!謝っているだろう!?」
だから、折れたのだ。
ラムサスは面白くなさそうにその蓋を開け、手に取り馴染ませる。
「ほら、尻を出せ、尻を」
だから折れたのだ、が。
「シグルド」
「う、うう……」
「シグルド!」
「あぁ、分かったよ!クソッ」
もうこれきりだ。次からはふん縛ってでも…。そう割り切ってうつ伏せになる。
「それではやり難い。上に掲げろ」
「痛くするなよ…?」
「痛く?今更だな…」
「い、嫌だからな、痛くしたら暴れるからな!」
「みっともない…幾つだお前は。子供みたいに…」
「いい!みっともなくても良い!痛くしたらそこまでだ!」
「分かった。痛くしないから、さっさと尻を上げろ」
おずおずと、動作そのものだけは可愛い気たっぷりに、シグルドが尻を掲げる。
「恥ず…恥ずかしい…っ、童貞卒業から14年、他人の尻だけを見て生きて来たこの人生…っ!」
何を言いたいのかなんとなく分かるが、非常に誤解を招きそうな発言、そう思いかけ、あながちそれも真実かもしれないと、ラムサスはコメントを控える。
「覚悟はできたのか?」
仏の心で尋ねてやるラムサスの声も聞こえない様子でシグルドは身悶えながら枕を手繰るように引き寄せ、それに顔を埋める、だけでは足りなかったのか、枕の下に顔を埋めて消え入りそうな声を漏らす。
「もう…生きて……俺の……」
「……甘ったれた事を言うんじゃないっ!!」
まだ指を当ててすらいない。腰を入れて遠心力さえ利用したラムサスの平手打ちは、シグルドの尻で完璧に美しい乾いた音を鳴らし、部屋に反響する。ラムサスも微かに身震いした程だ。シグルドの「ギャン!」という悲鳴にサディズムを刺激されたのでは断じてなく、その完璧な美しさに感じたのだ。
14年。自分14年と言えば、散々だった。ラムサスは感傷に浸る。塵ために廃棄され始まった14年。友は次々に自分の元を去り、それでも無心に地位を勝ち取れば化け物じみた子供にプライドをずたずたにされ、再び現れては何度も自分を打ちのめし(自分から挑んだ、という事実は…都合良く忘れよう)、果ては愛した女は単に自分を利用していたに過ぎないという、悲劇の連続の後に付いた最悪の最後。他人を攻撃する事によって自分の存在意義を確認している?そうでもしなくては、あの境遇で自身を保つ事は不可能だ。だがそもそもは、違った。自分も、少しは、穏やかだったはずだ。この男が、自分を裏切るまでは……。
ラムサスはそっと、その中心に指を当てて、問いかける。
「シグルド。痛いのも時に快感に変わると聞くが……」
「!!!!」
「……冗談だ」
絶対に、本気だった。シグルドは震える。「冗談だ」そう言う直前に舌打ちが聞こえたのは、空耳ではない。
しかしそこから復活し、本当の自分の存在意義を見つけたラムサスは、ゆっくりとシグルドの中へと指を押し入れる。
「い……っ!」
「痛いか」
「いた……くない……っ」
「ならば問題ない」
また、指を進める。
「……っつ…!」
「痛いか」
「くない……っ」
「ならば問題ない」
ある程度入れた指を、今度はまたゆっくりと、引き抜いてみる。
「ふぁ、は……っ!?」
「痛いか」
「くな、……っ、う、うう…」
「どうした」
「う、う、うん……こ出てる……」
「ふむ。……という、感覚だ。見る限り出ていないから、問題ない」
また押し戻し、指を回転させてみる。
「は…っ、いや、いやいやいや!」
「どうした」
「あっ、あっ、皮が、裂け…!突き抜け…!」
「痛いのか」
「くない、……けど!」
「では、という感覚だな。裂けていないし突き抜けてもいないから、問題ない」
また指を戻し、内壁を押してみる。
「………っ!!!」
「いい加減、うるさいな。痛くはないんだろう?」
「そうっ、そう……っ、違う、」
「何だ、はっきり言え。……確かこの辺に、前立腺がある筈だったが」
「こ…っ、そ…!ちが……っ、あ…!」
「違うのか?ここだと、思うんだが…違うのか?ここじゃないかと…」
「んんっ、んんんっ…!」
シグルドは、今日使われる予定のないはずの、14年使い込んだある部分が、臨戦態勢に入るのを自覚……したくなかった。断じて、ない。有り得ない。自分が、尻の穴でよがっておっ勃て、あまつさえその先から早くも、
「カールのが、欲しい!」
「……はあ」
この感覚よりも、痛みの方が全然マシではないかと、瞬時に転進を決めた。
「カールの太くて硬くて長いのを!」
「厭味か、それは?」
ラムサスは既に最高値に達していたシグルドのものを冷ややかに見遣った。
「俺には、カールのが、ジャストなんだ!今決まった!カール無しに、俺は生きられない!カールのを、俺に、ぶち込んでくれ!」
ラムサスは困惑しつつも、彼の掴みかかり食い融合せんばかりの迫力に圧倒され、指を引き抜いた。シグルドが名残惜しそうなため息を漏らす。そしてぶるぶると首を振って頬をバシバシと叩いている。
「ぶち込んでくれと、言われてもな」
ラムサスが自慢の黒ビキニパンツを脱ぎ捨てると、そこに大人しく収まっていた、カブトムシの幼虫のような全く無害の物体が姿を現す。
シグルドの頭の中で、十字のペンダントが揺れ、目の覚めるような音と光を発した。
「俺に、任せろ!」
「おおそうか、お前が勃ててくれるか」
「無論!『ほうら欲しいだろうそれなら自分で大きくしてごらん』という展開は定番中の定番!お任せ下さいご主人様!」
「ふむ。お前の主人になったつもりもないし途中も意味が良く分からんが、その野太い声から感じられる心意気や善し。任せよう」
かぱっと寛げられる股間にシグルドはいそいそと顔を埋め、その時、ラムサスの死角で微かに鼻を膨らませた。
(フフフ………追いかけなさい、“仔猫ちゃん”。いくら求めても得られない挿入権を。その刻まで……)
そしてちらりと顔を上げてラムサスを見遣り、すぐに思い直し、撤回する。
(流石に“仔猫ちゃん”は無いわ)

十年ぶりに対面するそれは、幾分張りツヤは無くなったように感じられるが、大きさはあまり変わっていないようだ。シグルドはカブトムシの幼虫を摘み上げて、とある特有の文化を持つ部族よろしく、ちゅるりと口に含んだ。
まだすっぽりと口に収まってしまうそれを舌の上で転がし、奥歯であむ、あむ、と甘噛みする。強張るラムサスの太股を撫でながら、今度は包み込むように舌の上に乗せ、というバリタチ14年シグルドのフェラテクニックは重要ではないので、簡略化しよう。
「ん……っく……」
「…っあ、はぁ……」
「はぁ…っ、は……」
「………っ」
「……ぁ、シグルド、もう…いい、」
「シグルド……っもう、十分だろう……っ」
「っは、…っ、シ…、シグ……ッ!」
「ん…ッ、っぁ、あっ、は、っやめ……っ」
「……ーーっ!!」



「イ、イッってしまったではないか!馬鹿者!!」
「しまったぁ!俺としたことがなんという計算ミスを!頑張り過ぎたってのか!?何故もっと早く気が付かなかったんだ!これでは……これでは猛り狂ったカールの熱い肉棒を俺の秘密の閉ざされた蕾にぶち込んでもらう事ができない!」
これでは、と繰り返しながら、シグルドは尿管に残った精液まで搾り出して啜り上げる。
「そ、そんな……これでは……ズズッ…」
「うるさい!黙れ!白々しい!」
「白々しくなんかないさ。俺は最初から、カールの挿入権を盗む為にやってたなんで、そんな事……恨むなよ」
「許さん、許さんぞ!この、裏切り者ぉっ!!」
「許さないと、言われても、なぁ」
まだ辛うじて勃っているそれを指で挟んで、ふるふると左右に振る。
「よ、余計なことをするな!まだ勃っているではないか、このまま挿れるぞシグルド!」
「いやいや。閣下、離脱します!という所かなぁこれは……」
左右に振るうちにそれはみるみる頼り無く、へなへなとくずおれてしまう。閣下という地位も、美人副官という恋人も失った何時しかの彼のように。もしくは友人にビンタを貰った時の彼のように。
「歳には勝てないよな」
「阿呆抜かすな、まだ二十台……いや、俺は十四歳だ!すぐに回復する!」
「凄く都合良く開き直った屁理屈を聞いたな」
再び人畜無害の姿に戻ったそれを指先で弾いて、第一、とシグルドは切り出す。
「カール、俺で勃たないじゃないか。それともまた咥えるか?」
ラムサスは、ぐっと息を呑んだ。
「決まり、だよな?」
シグルドにジリジリと穴が空きそうな程睨みつけているラムサスに、身を乗り出して口付ける。
「………っ、好きにしろ!」
「もっと可愛く言うもんだぜ?『もうっ、アナタの好きにしてぇ』って……」
「誰が得するんだ、それは!」
シグルドは復活した。本当の自分の存在意義を再確認したようだった。

シグルドは生き生きとした動作でラムサスをベッドに寝かせ、更に身体を横向きにするよう指示した。
「いいのか、先のようにうつ伏せでなくて」
「あぁ、だってカールは顔が見えた方が良いって……違ったか?」
問われ、ラムサスは老人のように目を細めて過去のあらゆる記憶を手繰り寄せ、そして手ぶらで帰って来た。
「お前は、娶った妻を他の女の名で呼ぶというベタな失態をやらかすタイプだ」
希望の有無はともかく、シグルドはその状態でラムサスに片足を抱えさせる。そのあられも無い格好を前に感激し、ぐっと目頭を抑えた。
「玉袋が…弛んで皺だらけで…ッ、色素が沈…!」
「お互い様だ。お前も酷かった」
ぐずぐずと愚痴を連ねるシグルドに、ラムサスがトドメとばかりに言い放った。
「早くしろ。お前の太くて硬くて長いのとやらを、挿れるんだろう?」
丁寧に尻に手を添え、振り返って上目に。
「15の君に…!言って欲しかったッ!」
「15?来年か。今14歳だからな。楽しみにしていろ」

その後は三十路男二人によるめくるめく官能の世界が繰り広げられたが、再び割愛しよう。
ただラムサスは果てる直前、こう言ったという。
「……初めてだよ。セックスがこんなにもあたたかなものだったなんて……俺には……あたたか過ぎる……」


事が終わって漸く一息付いた頃。シグルドはベッドの上で身を固くして正座し、無駄に広い背中を丸まらせていた。
「一人大反省会開催中か」
シグルドは答えない。あらゆる意味で出し尽くした彼は、漢らしく、冷静自己分析モードにすっかり突入していた。
「俺は、もうカールの事は抱かないと、決めてたんだが」
「何故」
またシグルドは答えず、大きな図体を縮込ませている。縮まる筈もないのに。
「何をつまらない事を思い悩んでるのか知らんがな」
ラムサスは危うく「どっこいしょ」と掛け声を掛けそうになりながら、身を起こし胡座をかく。
「昔だって、気乗りはしなかったが、別に嫌だった訳ではない」
「しかし……」
「今回も、どんな悪夢を見せられるかとも思ったが」
「すまない。本当に、すまない」
声まで小さくさせて行くシグルドに、仕方の無い奴だ、と溜め息を吐き、「まだ話の途中だ」と付け足す。
「今日のは、良かったぞ。見違えるように、上手くなったじゃないか」
シグルドの肩がぴくりと跳ねる。恐る恐る、ラムサスの方へ顔を向ける。目が丸く見開く、そしてキュウと細まり、眉が、へなりとハの字に傾く。
「カール!」
191センチの図体から繰り出されるラグビー部ばりのタックルを、後ろによろめきながらもがっちりと受け止めた。その頼もしい胸の中で、シグルドが尋ねる。
「もう一回、するか?(もう少し休んだ後で)」
ラムサスも目を細めて微笑み、シグルドの頭に優しくポンと手を載せて答える。
「お前が下でな」

メンズ・ラブ 終
ぽぽ子





という、夢。




シグラムのCP括りでの幸せ展開を考えてたらこうなっ………
あと29歳大人セックスを考えたらこうなっ………
色々理想と違う気はするけど、シグラムをCP成立させたままでの幸せ展開ってのだけは抑えてると思うの……

いいよ、難しい事考えないで、やっちまえばいいよ!

俺時間軸の外パラレルって事で。あと色々手抜きですみません。エロシーン面倒がってすみません。
ってかごめんなさいするのそこじゃないですよね。
良いです。みんな、包丁持って、アタシの胸に、飛び込んでおいで!

あと29歳ってもっとちゃんと若いと思います。フィクションです。

ひとまずここは、………脱兎!(古典的表現)

2010.10.27 完成