ナントカ犬

本日のラムサスがおかんむりの理由は、春からの新人に依るもののようだ。その、また、例の。
当たり散らしている彼を、シグルドはなるべく動き回らず、そっと横目に見守る。とばっちりが怖いわけではないのだが、あまり刺激しない方が良いのだろうと、まずは様子を窺うのだった。彼の方から、こちらへ向かって何かしらの要求が寄越されるまでは。
さて、そうしている内に。ラムサスの釣り上がった上に少々涙ぐんだ両目がシグルドへと向けられる。
よし来た。
シグルドはシャキッと姿勢を正した。

「遅い!」
「はははっ……待たせた?」
ベッドサイドに立ち、腕を組んで爪先をピクピク動かしていたラムサスにヘコヘコと頭を下げながら、自分はベッドの上へ。
「何している。さっさと脱げ」
「はい、よっ……と」
真っ裸になって、正座で待機。同じ場所へのし上がって来るラムサスを上目使いに見上げ、お願いを申し上げる。
「あの、さ……あんまりその、痛いのは……」
「痛いのは、何だ」
「なるべくなら……傷とかになると後々…面倒じゃん、そこんとこだけ……な?」
ラムサスはフンと鼻を鳴らしただけで、承知、との言葉はない。ただ手に、潤滑剤のチューブを取り、パチンと親指で蓋をはじき開ける。空いた手はシグルドの胸を押し、逆らわず、シグルドはされるままに重心を後ろへ預ける。
「後に困るような傷が付かなければ良いんだろう」
「ん、まぁ……アッ、冷てっ」
まだ萎えたペニスへ、潤滑剤がたっぷりと絞り出される。これだけ使ってもらえれば、まず心配はないかもしれない。
「ただ、そんなぬるい事で、お前が満足か?」
もう全然。トロトロのヌルヌル、大好きです。
シグルドの片足を、ラムサスが腕に担ぎ上げた。
「うわ、ちょ、ちょ、えっ……だっ……靴下――ッ!!」
シグルドの拒否やら歓喜やら分かり兼ねる叫びに乗せて、カーランの爪先が柔らかいペニスをグニャリと踏みつけていた。
「くつし……っ、靴下っ!カール、足、靴下!」
「靴下が何だ、えぇ?」
「駄目、駄目、靴下駄目……あっァア!」
ヌルヌルでトロトロの局部をなぞり、荒い綿の生地が何度も行き来する。充分な量の潤滑剤の助けがあり、障害はなく滑らかに、しかしそれでも、生地の質感はありありと、薄い膜を容易く越えその奥の芯までも到達し、脳天までザラザラと舐められているような、恐怖感さえ引き起こす、だかそれは、紛れもない快感。
「何?何が駄目なんだ?そらそらそら、貴様の汚いちんぽこが醜く頭を持ち上げて来たぞ!」
ローション靴下、驚異的。シグルドは腹の底から身悶えながら、その情報をしっかりと脳に刻み込んだ。
この綿の質感が酷い。酷く良い。薄く目を開いて事件現場を盗み見て、どういう訳か、急に冷静になった。
彼が通勤に履く靴下は、こんなに荒い生地ではない。もっと薄くてスベスベしているのに。2秒程凝視し、また2秒程部屋を見回し、了解把握した。1日履きっぱなしだった靴下は脱いで半分に畳まれ、部屋の隅にある。今彼が履いているのは、タンスから出したばかりの、休日用の。中でも幾分新しく綺麗な。
感激すれば良いのか、落胆すれば良いのか、困惑するシグルドをまたグレードの上がった刺激が襲った。
「カール……ッ、駄目、やっぱ…駄目…!」
曲げられた爪先が、亀頭の縁を捲らんばかりの勢いで、扱き上げている。のけぞり、手でシーツをパタパタパタと叩いた。降参の合図、ラムサスは気付かないのか。
「痛い…っ、痛い!待て、まっ…て、足っ……カール!」
「痛いと言いながら、何だこの有り様は?悦くて悦くて堪らないとヒク付いているではないか」
「ほん……ッ、こうさ、ンッ、アァっ、ァ――!」
担ぎ上げられた片足、ラムサスの腕に力が込められて、アキレスけんが完全に“決まって”いる。降参だ。この新しい刺激には、いくら何でも、耐えられそうもない。
「ちょっ、ま…ッて、て、ッく…イク、イクイクイク…!」
それでも結局、アキレスけん締めを決められながら果ててしまったのだった。そんな自分はなんと、器用貧乏、なのだろうかと思った。シグルドの頭は未だ相当混乱していた。
ようやく力の緩められた足首見上げて深く息を吐き、無事を試すようにぐるぐると動かして指もパキパキと鳴らさせた。
「別に…痛くはなかっただろう…?」
ラムサスがどこか不安そうに、小声で尋ねる。シグルドは反射的に怒鳴り返していた。
「ばっかやろ、アキレスけんに入ってたんだよ、腕がっ!ずっとタップしてたっつの……に、……気付かな……」
怒鳴り返しながら、視線はヒク付くラムサスのこめかみを捉え、やがて消え入る声に変わる。ヒクヒクとそれは、イッてしまう、寸前の状態だ。
「……“馬鹿野郎”?」
「いや…その…ちょっと興奮して…」
「馬鹿野郎、と言ったか?俺を?」
「その、いやそれは、カールじゃなくて、そのぅ……アッたっ、い、痛い痛い痛い!」
「馬鹿野郎と言ったな?」
「言った、言いましたごめんなさい許して!カール!いッ、ごめんなさっ……肝臓の足ツボグリグリはやめて――ッ!健康になっちゃうゥッ!」
両手の高速タップを無視して絶叫をシグルドから絞り出し尽くしたラムサスは、白々しくもこんな事を主張した。
「そうだな、己の非は認め謝罪するべきだ」
その不貞不貞しい表情を、涙に霞む視界の中でも確認せずには居られない。
「あぁ、分かるぞ。お前が何を言いたいのか」
冷ややかに見下ろす視線に恐れを抱き、すぐに目をそらした。
「腕が、アキレスけんを締めていた?そうか、それは、可哀想な事をしたな」
そらした目は、すっと落ち、ラムサスが足先を伸ばす方向へ。
「そう言えば、良いのか?貴様は俺を、痛い事をした馬鹿野郎だと、そう責めるのか?」
ピチピチ、チャプチャプ、ランランラン。そんな童謡を、頭の中で口ずさんでいた。
「自分の腹にこれだけ濃いザーメンを噴き出しておいて、まだそんな事を言うのか?この、ド変態が!」
シグルドの腹にできた、濁った水溜まりへ、ラムサスが片足を踏み込ませた。子供のように楽しそうに、べチャリと音を鳴らし、グチュリグチュリと塗りたくる足先を見て、シグルドは、
(もみ洗いしないと…!)
と思った。
黒い靴下には、ザーメンの白がよく映える。
「おい」
その黒い綿の靴下は、次はシグルドの鼻先へ。
「貴様の汚液で、汚れたぞ。脱がせろ」
汚液とやらを、滴り落ちそうな程含んでしまった靴下を鼻先に突き付けられたシグルドは、素直に、口を開いた。ご主人様の体は、決して傷付けぬように。そっと、靴下の生地だけを捉えるように、牙を立てる。かっぽりと口に含み、首を大きく降る。ラムサスが同時に足を引き、ご命令の通りに。
「犬。よくやった」
「ん……むっ」
「褒美でも、欲しいか」
シグルドは靴下を口にくわえたまま、コクコクコクと頷く。
「何が良いかな?」
「ンンッぐ、ふッ、ふうッ、……」
「そうだな、貴様のような盛りの付いた駄犬が、一回ちんぽこ擦られてイッただけで、終わるわけないな?」
くわえている逆の端をラムサスが引っ張り、口は自由になる。シグルドはせきをきったように、
「わっふ、わふっ、わん!わん!アオォォン!」
吼え立て、
「口が開いたなら普通に喋れ低脳の屑が!」
本気のお怒りを食らった。
この程度のミステイクは、想定の範囲内だ。
「カールの…、おちんちんで、イかせて欲しい…です」
「ほう?俺ので、どうして欲しいって?」
「カールのおちんちんを……尻の穴に、……」
「貴様の臭いクソ穴に、俺のをどうするんだ?」
「お、俺のクソ穴に突っ込んで、ぐちゃぐちゃに掻き回して…ッ、俺の汚いザーメン全部絞り出して下さいっ!」
「駄犬が随分な贅沢を口にするようになったではないか!」
「お願いしますっ!駄犬が贅沢言ってごめんなさいっ!ご褒美のおちんちんクソ穴にくわえ込ませて、駄犬らしくみっともなく喘がせて、ちんぽミルク垂れ流させて下さいッ!!」
そうそう。傷になると後々が面倒だから、まずは潤滑剤をたっぷり中へ注入させて。更に念入りに、馴染ませるようにまずは指で確かめて。短く切り手入れした爪でも万が一を考え指にもサックを嵌めて。極めて繊細な動きで準備を整えて、さあやっと。指が引き抜かれ、次はいよいよ、とシグルドのペニスは既に“トコロテン”の準備に意気込み勃ち上がってぶるんと震えた。

「………ふぇ?カール?どうした…?」
指を引き抜くと、自身の衣服を脱ぐのではなく、ぱっと身を返して布団の中に潜り込んでしまったラムサスに、シグルドは狼狽えずには居られなかった。
“放置プレイ”。
それも考えなくはなかったが、どうやら様子が可笑しいと、急ぎ起き上がって丸まった背中を布団越しにポンポンと叩いてみる。
「カール……?」
返事がない。
息を詰まらせたような声が、代わりに聞こえた気がした。
「あー……えっと……そっか……」
シグルドは視線を宙に投げ、少し考え込み、また背中をポンポンと。
「今日は嫌な事あったんだろ?そしたらさぁ、そんな気分にもならないって。な?俺別に、気にしないからさ」
気合いだけではどうにもならない時もある。おそらくは男同士だからこそ分かり合える弱さではないかと、シグルドとしては受け取れるのだけれど。
「お前の前で、男で在る事もできないなんて……俺は……塵だ……」
「ちょ、え、ゴ…ミ……?何だって?……あの赤毛に今日は一体何を言われたんだ……?」
「……もう……生きて……」
布団の中からはとうとうすすり泣きが聞こえ始め、シグルドは頭をぽりぽりと掻きながら、
(超めんどくせぇ……)
と、早くも心配を余所へ転がしてしまっていた。
昔の彼は、こんなんでは無かったのだけれど。
「もうさぁ、仕事辞めちゃえば?」
今、“男”になれなかった状態の彼に、一番言ってはいけない事を。
「そうしたら俺が養ってあげるからさ。そうすればいいじゃん」
一度口を付いてしまえば、止まらない。
「カールは色々溜め込んじゃうみたいだからさ、家でのんびり俺の奥さんやってたら良いんだよ」
「な、な、何、おく……ッ!?」
「お洗濯してご飯作ってさ。カールは器用で何でもできるから、その辺の女の子よりもずっと良いよ。家事も安心して任せられるよな」
愛する者を養いその者が自分に尽くしてくれる。嗚呼、男の夢ではないか。逆を言えば、己を男とするなら、反対の立場は屈辱的かもしれない。そこまでとは言わずとも、布団をはねのけ言葉を詰まらせブルブルと震えてしまう程には。
「そうそう、カールは何でも器用にできるけどさ、あっちは、向いてないと思うんだよな。Sプレイは。カールはさぁ、気使い過ぎなんだよ。それじゃ楽しめないよ。カールは根が優しいからなぁ…。でももしかしたら、勃たないのもそういう事なんじゃないか?」
「お、俺を!馬鹿にするのか…!」
「どっちかっていうと逆だよな。カールはM側の方が向いてるよ」
「貴様もッ、俺を攻撃するというのか、この俺を!」
シグルドはラムサスの目を真っ直ぐ見つめ返し、静かに首を振り、ゆっくり口を開く。
「違うよ。誰もカールを攻撃するなんて言ってない。例えば、羞恥プレイとかさ。カールは絶対ハマる」
「て、て、敵だっ…!貴様も、敵だ…!!この、裏切り者!!」
シグルドはサッと立ち上がり、もう振り返らない。負け犬がキャンキャンと吠える声を背中で受けながら、キザな捨て台詞だけ残し、浴室へと消えた。
「ただ、俺はあぁいうのも……悪くは、無かったぜ……」

ナントカ犬
ぽぽ子


SMは愛よねぇ!心根に流れる優しさあってこそ成り立つのよねぇ!
カールのシグルドへの愛が深すぎて…っ
というかこんなシグラム、私はすごく…好きなのですが…駄目ですか、色々な方向で駄目過ぎますか。
本編じゃどうしてもすれ違いまくりなのでパラレルではこういうのを書きたくなってしまうのです。
愛!ですよねぇ!

攻めカール楽しいですごめんなさい


赤毛が塵塵言ってるんじゃないと思うのですが…
何かの仕事の成果品を赤毛の作ったのの方が全然素晴らしくてじゃあこれは塵ね、とかそんな想像…
何故だっ!俺の仕事より、この若造のの方が優れていると言うのかッ!

シグバルだとどうにもシグとは相容れなさそうなイドですが
シグラムとなると変に意気投合して一緒になってカール苛めしてそうですね。3Pでいいんじゃないか。

なんかとってもやっつけ仕事になってしまいましたが!ドS鬼畜攻めカールを書きたかったのです!
それだけとりあえずやり遂げたっ自己満足です。
エレハイムさまのお言葉聞いたら書かずにはいられない。ドSカール。カコイイのばっかり書いていると彼の存在が虚ろになってしまうから…。