チョコレート会議
バルトが鮮やかな包装紙に包まれた小箱を持って来た。 「俺に……?」 学年末の長期休業で実家へ帰省した大学生よろしく、シグルドとその弟バルトが暮らすこの家を実家であるかのようにゴロゴロと転がり回っていたカーランは、今まさに朝食後の三度寝を試みようとしている所であった。驚きつつもその感情変化すらも極めて緩慢な動きで、もそもそと上体をもたげてからやっと、少し眉を引き上げ「驚き」の感情表現を完了させた。 「バレンタインだから」 「あぁ、そうか……ん? バレンタイン?」 これは間違いの無い情報である。今日はバレンタインデー。好意を寄せる男性へ、女性がチョコレートを贈る行事日として定着していた。バルトの持つ小箱の中身も、チョコレートなのだろう。 「私にくれるのではないのですか!」 また別の理由で遅れ、やっとのことで驚きの感情を露わにさせたのはシグルドである。カーランとは更に別の理由で驚いたようだったが。 「俺もな、どっちかなって、思ったんだけど……」 バルトは険しい表情でカーランとシグルド、二人の顔を見比べる。割合はなれた所に在るシグルドの喉がゴクリと鳴ったのを、カーランは聞いた。 「カールの方が、『男』なのかなぁって」 その言葉が放たれてからの、二人の動きは機敏で瞬発的であった。 「そうかありがとうバルト、貰っておこう!」 「カール! どちらかと言ったら、俺だろう!」 「何を言っているんだ。昨日は俺だった」 「き……っ、のうは、だろう! 通算で見たら俺が多い!」 「数じゃない。内容だ。よって、俺だ!」 「内容だったら尚更!」 ビーチフラッグの代わりにチョコレートの小箱を手にしたバルトは、男二人の見苦しい取っ組み合いをじっと見上げていたが、とうとう見かねて咳払いを「コホン」とひとつ割って入らせて、腕組みをした。その姿はまるで審判員のような威厳に包まれ、また誠実さが全身から満ち溢れていた。 「あのな。どうしてさぁ、分かち合おうって、そういうのできないの?」 二人は剥き出しにしていた醜い男の感情を慌てて鎮火させ、有難い指導を恭しく拝聴した。 「そうだよな? 仲良くしろよ。とりあえずこれ、カールにやるから。あとで二人で相談して食うんだぞ。じゃ、俺ガッコー行かなきゃなんないから。ケンカするなよ!」 小さな背中に家長の何たるかを滲ませ、それを謙虚に隠すようにしてランドセルを背負い、バルトは出て行った。 |
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